不動産屋のラノベ読み

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千葉の熊谷市長のハンコ禁止についてやりたいことがまるで伝わってこない件

 

印鑑を忘れた市民に出直しさせることを不思議に思わない体質の裏には、日頃内部で決裁も含めて殆どをサインではなくハンコで行っている実態があり、今後サインに改めるよう指示したところ、「走り書きはダメ。本人と分かるよう綺麗に」と趣旨がずれて指示が下りたとのこと
文化の違いの中で意図に適う指示を現場の職員まで伝えることの難しさを感じます。「シャチハタだからサインと同じくらい早いからいいじゃないか」。内部書類でここまでハンコを使っていることの特殊さ、オンライン化への障壁となっていることへの理解を、何とか職員に理解してもらえるよう努力します

千葉市長「印鑑証明という前時代的な本人確認手段が見直せない行政に合理化など期待できません。」 - Togetterまとめ

これ、市長が何をしたいのか全く伝わってこない感じですね。
「印鑑を忘れた市民に出直しさせる」ことを解消したいという目的が伝わらずに「ハンコ文化をやめさせたい」ということだけは伝わってきて、「シャチハタ不可・署名のみ」という指示があれば、それはもう「おそらくシャチハタだと本人確認ができないからという意図だろう」と思われてしまうのも仕方がないでしょう。だから所内に「走り書きはダメ。本人と分かるよう綺麗に」という指示がされるのも当然だと思います。
そして、業務的には「シャチハタ不可・署名のみ」というのは、今まで「シャチハタでポン」で済んでいた作業が「サイン」に変わるわけですから、画数の多い姓の人は手間が増えることになります。
初めから「市民からの書面に押印は一切不要」という指示を出せばいいのに、なんでそんな回りくどいことをしちゃったんでしょうね。千葉市役所のみなさんも混乱中でしょう、お疲れ様です
 

印鑑証明カードについて

印鑑証明という全時代的な本人確認手段が見直せない行政に合理化など期待できません。今はどの役所も印鑑証明カードを忘れたら免許証などで本人確認ができても出直しです。こんな馬鹿なことはありません。何十年前の国の指示に基づくものですが、千葉市は条例改正で見直します

千葉市長「印鑑証明という前時代的な本人確認手段が見直せない行政に合理化など期待できません。」 - Togetterまとめ

印鑑証明発行のためには印鑑カードが必須だったところを、本人確認できればOKとしようということです。つまり、セキュリティを少し甘くして利便性をあげようという話ですね。
これはとてもいいと思います。もともと「本人認証済」の人に本人確認の手間を省くためのカードですから、カードがなければやり直せばいい。道理です。
もちろん役所の業務は増えるでしょうから大変だと思います。千葉市役所のみなさん、お疲れ様です
 
ただ。
なんでこんなことするんでしょうね。
本当にハンコやめたいなら、印鑑証明を使わせたくないなら、便利にしちゃダメでしょう。逆に不便にすればいいんですよ、たとえば申請から発行まで2週間かかるとか。そうすれば使う人も減るはずです。目的とやってることがちぐはぐな感じがしますね。
 

印鑑登録をやめるためには

ところで、熊谷市長は印鑑登録をなくしたいようですが、どういう代替手段が考えられるでしょうか。ただサインをするだけでは、その署名が真正なものかどうか保証ができませんので、何らかの代わりになるシステムが必要です。
3点あると思います。
 
まずひとつ目。拇印。
これは実印に替えてもいいだろうと思うのですが、法律上、今のところ何の効力もないに等しいです。これを法改正して署名と同等の効力を持たせるようにすればいいのかもしれません。
 
ふたつ目は公証人。
これは現在にもあるシステムですが、公証人役場に行って署名が有効であることを証言し確認してもらうことです。一番確実だと思うんですが印鑑証明よりもずっと手間がかかります。不動産で契約同時決済とかになると5,6人集まりますから、今の状態だときっと公証人役場には行列ができることでしょう。捨印ができませんから、司法書士の先生方も一発勝負になるかも。なかなかトラブルが増えて楽しそう。
 
みっつ目は電子署名
これは市長自身も書いてますが、マイナンバー制導入にあわせて個人の電子署名デバイスを配布するというやり方です。この方法だけが唯一ハンコよりも「オンライン化への障壁」にならない方法だと思います。ただ、ハンコ持ち歩くのと電子署名デバイス持ち歩くのとでは利便性は大して変わらないと思いますし、紙の契約書には署名ができませんし、外国人が契約する時にも問題が出そうですし、各所に認証用デバイスの設置が必要になりますし、セキュリティリスクが増えないか不安もありますし……、と色々検討事項は多そうです。
ハンコ押すのと電子署名認証するのとだったら、ハンコの方が楽かもね、という気もしてきます。千葉市民のみなさん、お疲れ様です。下手をすると楽になるのは行政だけでは……
というか、まあアレです、↓これってどの程度使われてるんでしょうね? ということを考えると便利かどうかは自明のような気がします。
公的個人認証サービス ポータルサイト
 

三文判

ハンコ文化なくせ、というのは主に三文判のことだと思います。印影登録を行う銀行印などを除いて、あれは署名ほどの本人確認能力はないでしょう。そうであれば特に意味はないのでやめてしまってもいいのでは。特に捨印。業務的には便利ですけど、法的にはかなり立場が弱いはず。
ハンコをなくしていくならここからだと思うんですよね。たとえば婚姻届や離婚届なんかは三文判ですから押印を全廃すればいい。これは地方自治体の管轄ではないから熊谷市長には改革できないけれど、全国の「ハンコは無意味」という人たちは支持してくれるはずです。
その他、本人以外の人が住民票などを取る時にはハンコを要求する役所が多いですが、この辺はすぐに熊谷市長が廃止してくれるはず。今までは他人の不動産の評価額証明取る時に三文判用意してましたので、不動産屋的には手間が減ってありがたいです。ぜひやって欲しいです。当然、委任状に押印がなくても認めてくれますよね。千葉市役所のみなさん、ありがとうございます、お疲れ様です
というか、まあアレです、↓というのもありますし、真面目な話としてひとつよろしくお願いします。
押印見直しガイドライン
 

ハンコも色々あるよね

整理して書くと

  • シャチハタ チェックの意味で手間を省くために利用するので必要。
  • 三文判 あまり必要ではないかも。しかし一部の手続きに関して性急な排除は混乱を招く恐れも?
  • 実印 書名押印の確認に効率的なので必要。

ということでは。
 
 
 
熊谷市長は有能な方*1ですからこの辺のことは理解してると思いますので、ご自分のやりたいことをもう少し役所の方や市民に伝わるように表現されればいいのになあ、と思いました。
なお、「署名で済むことはなるべく押印を廃し、印鑑証明のよいところを利用しつつ徐々に電子署名にシフト」なんてのは、改革でもへったくれでもなく既存の流れ*2に乗ってるだけですからその辺はぜひご理解くださいね。

*1:皮肉ではないです

*2:流速はともかくとして