不動産屋のラノベ読み

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加藤一二三さんの猫裁判と区分所有法

 
 RRDさんが、
 加藤一二三さんの猫裁判の争点と俺の意見書 - NOW HERE
 という記事を書いてらっしゃいます。
 おおむねのところを言うと

  • 地域猫」には飼主や所有という概念がなじまないのではないか。
  • 一般不法行為を主張するにしても、損害の因果関係を証明することは困難ではないか。

 というご意見でした。
 
 私がこの件で引っかかったのは、以下の部分。

自宅のある集合住宅の庭などで長年、野良猫に餌を与え続けて

http://sankei.jp.msn.com/region/kanto/tokyo/081218/tky0812181445006-n1.htm

 集合住宅ということは分譲マンションですよね。そして、おそらく専用庭でエサをあげていた、と思われます。この点が加藤さんに不利かと思います。
 
 まず1点目に、区分所有法にこのような条文がありまして。

(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第57条 区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。

建物の区分所有等に関する法律,(略)区分所有法,区分所有権法,建物区分所有法,マンション法

 この中に「その行為の結果を除去」とありますが、除去できないような結果であれば(たとえば精神的苦痛とか)損害賠償ということも考えられます。このケースの場合、おそらく「ペット禁止」という使用細則があったと思われます。
 もちろん、そのマンションにてどのような規約が定められているかによると思うのですが、
 http://www.mankan.or.jp/12_member/p09_04.html
 にある、標準管理規約によると

(義務違反者に対する措置)
第66条 区分所有者又は占有者が建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、区分所有法第57条から第60条までの規定に基づき必要な措置をとることができる。

(理事長の勧告及び指示等)
第67条 区分所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人(以下「区分所有者等」という。)が、法令、規約又は使用細則等に違反したとき、
(中略)
一 行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること
二 敷地及び共用部分等について生じた損害賠償金又は不当利得による返還金の請求又は受領に関し、区分所有者のために、訴訟において原告又は被告となること、その他法的措置をとること

 とあります。おそらく、これに類する規約があるでしょう。つまり不法行為云々以前の使用細則違反による損害賠償請求になるかと思われます*1
 
 2点目に、専用庭は専有部分ではない、ということです。
「バルコニーは共有部分だから、物を置いてはいけない」という話を耳にしたこともあるかと思います。あるいは「玄関のドアは共有部分だから、勝手に交換してはいけない」とか。専用庭もエントランス・階段・廊下と同じくマンション全体での共有部分であり、ベランダ・バルコニーと同じように「一定の条件の元に」専有使用権が認められています。そこで猫にエサを与えたというのは、少し印象が悪くなるかと思います。
 
 そういうわけで、民法に基づく訴えでもあるとは思いますが、区分所有法もかかわってくるのではないかと。一戸建で「地域猫」の世話をするよりもワンランク厳しいのではないかと思います。
 ただ、個人的意見を言えば、請求金額が高すぎると思うんですよね。200戸のマンションだとして戸当たり3万円ですか。
 
 
 
 参考までに、こちらにいろいろ判例がありますので興味のある方は見てみるといいかもしれません。
http://www.mankan.or.jp/12_member/n_precedent/00_11.html

*1:もちろん、これでも「地域猫」がペットに当たるのかという争点はあります