不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

「追い出し条項」は必要悪な部分もある

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 この辺りの話。当方は賃貸管理業の会社にいて家賃保証会社の中の人ではないので、少し認識が違う部分があるかもしれないけど、こんな感じだと思います。
 

なぜ「追い出し条項」があるのか

 
 通常、3か月の家賃滞納があると、裁判所は「信頼関係の破壊」を理由に、賃貸契約の解除を認めることが多いです。
 賃貸契約が解除されれば、借主は不法占拠ということになるため、建物明渡で強制執行をかけることもできます。
 
 ところが、家賃保証会社は借主が滞納をした時に借主の代わりに家賃を支払います(代位弁済)。そうすると、形式上、貸主は滞納されていないため、「信頼関係の破壊」が認められないことがありました。
 そのため、明渡請求をするために、家賃保証会社はわざわざ代位弁済を中止して、借主の滞納の実績を作る必要がありました。
 これは、貸主に負担がかかるだけではなくて、家賃保証会社としても滞納解決に追加の3か月がかかることになり、コストがかかる処理でした。
 
 そこで、家賃保証会社は保証契約に「無催告にて原賃貸借契約を解除することができる」というような「追い出し条項」を追加することによって、家賃保証会社の代位弁済があっても賃貸契約を解除できるようにしていきました。
 これはこれで、業界全体にとって良いことであったと思います。
 催告があっても家賃3か月滞納をするような借主を、さらに3か月待ってやる理由はないからだろうと思うからです。困ってる人を助けるのは大家の仕事ではなくて政治の仕事です。
 

「追い出し条項」の何が問題か

 
 ところで、明渡請求訴訟は3か月の滞納があったとしてもその事実だけで「信頼関係の破壊」が認められるわけではないです。諸々の事情を勘案して判断されます。(たとえば https://www.retio.or.jp/info/pdf/90/90-146.pdf
 一方で、賃貸借契約に「無催告にて原賃貸借契約を解除することができる」という条項を使うことはできません(借地借家法第28条)。
 しかし、保証契約は借地借家法の範囲ではないので、「無催告にて原賃貸借契約を解除することができる」という条項を使うことができます。この条項が有効であれば、「信頼関係の破壊」について争う必要がなくなることになります。
 
 つまり、「追い出し条項」は「信頼関係破壊の法理」をバイパスしてしまっているのが問題、というわけです。
 

「追い出し条項」の今後

 
 判決を受ける前に、フォーシーズは以下のように条項を変更したらしいです。
 

原賃貸借契約及び本契約における賃貸人・フォーシーズと賃借人との間の信頼関係が破壊された場合には、フォーシーズは、無催告にて原契約を解除することができるものとする

 
 つまり、「信頼関係破壊の法理」を組み込む形にして、借地借家法に沿うようにした、ということですね。
 

蛇足

 
 今後の展開としては、
 

  1. 家賃保証契約を借地借家法の範囲に入れる
  2. 現行の「家賃債務保証業者登録制度」を強化し、免許制にして業者を締める
  3. 明渡請求を非訟事件化する

 
 等が考えられます。1番目はかなりの大工事になりそうなので、判例を元に裁判所が処理しそうな気もする。ただ、今回のケースは消費者契約法第10条による判例なので、万能ではないと思う(テナントとか)。2番目はありがちだけど、免許制ってどうなんだろう。役所のコストと業者のコストは確実に増えるよね…… 3番目もそんなにコストは下がらないかもしれないな……