不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

ゼロゼロ物件についてもう一言いっとくか

 
 ゼロゼロ物件について前回書きましたが。
 ブクマの内容とか↓こんなエントリが上がったりとか、本気で誤解してる人が多そうなので、少し詳しく書きます。
 

家賃を3回滞納で強制退去ってしょうがなくね?普通は支払期限より先に払うもんでしょ?法で強く保護されるべき?ふざけんな、ですよね。

http://d.hatena.ne.jp/sugane/20080717/p1

 
 みなさん、誤解しているようなのですが、今回のケースは借地借家法はあんまり関係ないです。だから、「借主の権利が強すぎる」とかは今回の事件に限り的外れな批判なのです。もちろん、実体が通常の賃貸契約なのに一時使用契約とするのは脱法行為ですし、弁護士さんがそこを争点にしたいというのは分かります。
 ですが、一番の問題は「強制退去は自力救済にあたる」ということです(参考:ポイントは債務不履行の中身(という理解でいいのかな?) - 不動産屋のラノベ読み
 

たとえば、自転車が盗まれて犯人と自転車の所在が分かっているとき、この自転車を奪い返す行為は自力救済にあたり罰せられる。こうした自力救済を容認すると、力が正義ということになり、実力行使を請け負う私的機関がはびこって社会秩序の維持が難しくなるためである。近代化にともない、権利のあるなしの判断や執行は裁判所によってなされるべきとされ、私人の介入を排した。

自力救済 - Wikipedia

 つまり、借金をしてどうしても支払ができなくなった時に身ぐるみを剥ぐような事は、法律上認められないのです。
 ですから、家賃滞納があった時には、裁判所に申し立てをして命令を出してもらう必要があります。鍵交換やライフライン停止などで強制的に退去させることは違法です。これは借地借家法の定めとは関係ありません。
 逆に言うと、家賃滞納で強制退去を認める人は、「自分や知り合いが借金が払えなくなった時に、裁判所の命令なしに動産不動産給与給付を押さえられ、身ぐるみ剥がされても一切文句を言わない」のが首尾一貫した態度と言えます。ちなみに、一部の例外を除いた債務について同じことが言えますので、極端な話「CDを借りパクした」とかでも同じことです。
 
 もちろん、債務不履行はいけないことでしょう。しかし、いけないことをしたからと言って裁判を起こしてはいけないということはないのです。

家賃が払えずに社会的信用を貶めたご自分か、そんな状況で逆ギレ訴訟を起こしちゃうように育てたご両親にでも慰謝料を請求すれば宜しいんじゃないでしょうかね。

 ヤクザと絡んだ事がないと分からないかもしれませんが、彼らのコミュニケート技術とは暴力だけではないのです。相手の良心を刺激するのです。「そういうやり方じゃ義理が立たねえんじゃねか?」みたいな言い方をします。自分の行動・振る舞いにまったく瑕疵がない人間などいません。そこをついて「申し訳ない」という感情を起こさせ行動を縛るのが、彼らのスキルです。ヤクザにつけ込まれている人は「自分も悪いところがあった」と思っているので、なかなか警察にも行けないのです。
 id:suganeさんは、この原告を「馬鹿なクレーマーは他の客を不幸にする」と批判します。
 しかし、私はそうは思いません。
 訴訟を起こすに当たって、そのような批判があることは想像していたでしょう。家賃滞納というのは恥ずかしいです、それを自ら晒すことに抵抗もあったでしょう。「自分も悪かった。契約書の内容も吟味せず、滞納もしたのだから、自己責任かも」という良心の呵責もあったでしょう。
 それらを飲み込んで訴訟に踏み切ったことで、この違法ビジネスを駆逐できるかもしれないのです。「他の客を不幸にする」どころか、誰かがやらなければいけなかった訴訟です。
 私はそういう人を「馬鹿なクレーマー」とは思いませんし、「逆ギレ訴訟」とは論外だと感じます。彼の行為を賞賛し、原告の訴えを全面的に支持したいと思います。
 
 
 
 どうでもいいけど、ウチの会社でも敷礼手数料0やってるんだけど、イメージ悪くなるからこの脱法物件のこと「ゼロゼロ物件」って言わないで欲しいなあ。