不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

「弱い」賃借権は解決にならない

 
 ブロガーさんが日本の賃貸住宅について語るときに、よく保証人の話をするのですが。
 

最近は「ハウジングプア」などとも言われる、この「住居の貧困」問題は、お金の問題という以上に、この「保証人が要る」ということが最大の問題なのだ。安い部屋の家賃くらい払える人であっても、保証人がいないと借りられないのだから。家と住所がなければ仕事にもつけないから、この保証人問題は、雇用問題でもある。

日本の賃貸住宅ではなぜ保証人を要求されるのか 「保護」がむしろ「弱者」を生む日本の構造 - モジログ

 こういう人たちって、話が面白くならないからなのか保証会社の存在をスルーするんですよね。
 たとえば、レントゴーなんかは、ウチの会社で以前使っていましたが印象として「誰でも通す」って感じでした。ブラックでも無職でも通しますし、「レントゴーに滞納してても審査通す」という噂を聞くぐらい融通を利かせてました。会社が変わってからはどうか知りませんけど、保証人代行業務の方は堅調だったと聞くので審査基準を締める必要はないかもしれないです。たとえ、基準を締められたとしても掛け金の調整で解決できるでしょうから、需要があればハイリスク用の保証も出るでしょう。
「それでも、無職・一文無しじゃ保証料も払えないだろ」という意見もあるかもしれませんが、無一文の人を市場に放り出すというのは保証人云々以前の問題でしょう。その辺は生活保護とかの出番だと思います。
 
 まあ、そういうわけで、保証人問題は市場にお任せしてそれ程問題ありません。以上。
 

大家のリスク

 以上、では面白くないので、もう少しツッコんでみます。
 まず、大家さんの滞納リスクについて、3つに分解してみましょう。

  1. 賃料債権の回収リスク
  2. 滞納者居座りによる運用リスク
  3. 夜逃げによる残置物リスク

 この中で、賃借権を「弱める」ことによって減るリスクはどれでしょうか。2だけですよね。では、保証人によってヘッジできるリスクはどれでしょうか。一応、全てですね。ですから、賃借権を弱めても保証人は必要だと思います。
 

本当に必要なのは非訟制度

もし借地借家法の規制がなくなって、家賃を払わなくなったり、迷惑行為をしたら即日追い出してもいい、ということになったら、大家はもっと気軽に貸せるようになり、保証人を要求する例も減るだろう。

日本の賃貸住宅ではなぜ保証人を要求されるのか 「保護」がむしろ「弱者」を生む日本の構造 - モジログ

「即日追い出してもいい」っていうのは借地借家法の定めと関係ありません。それは自力救済です。詳しくはゼロゼロ物件についてもう一言いっとくか - 不動産屋のラノベ読み←に書きましたが、「大家には自力救済を認めよう」という意見には賛成できません。なぜなら、大家とトラブった場合、借主は「まず追い出されてから訴訟」することを強いられるからです*1。住む家がない上に訴訟を抱えるというのは、なかなかしんどい状況ではないでしょうか。
 
 さて、では自力救済を認めずに賃借権を「弱める」と、実際のところどうなるんでしょうか。
 たとえば、「貸主は借主に通告することなく一方的に契約を解除できる」という改正を行ったとします。しかし、大家さんが勝手に追い出すと自力救済となってしまいますので、弁護士さんと相談して裁判所に命令を出してもらう必要があり、場合によっては裁判になるかもしれません……って、今と大して変わらないですね。
 そうなんですよ、問題なのは賃借権の「強さ」ではなく、法的解決のスピードなんです。ですから、賃借権を「弱める」ことは解決になりません。必要なのは、滞納による契約解除を速やかに解決するような非訟制度であると私は思います。
 

「弱い」賃借権があってもいい

 とはいえ、「弱い」賃借権があってもいいかな、とは思います。
 というのも、借家の賃借権というのは「物権化」と言われるほど強められており、その取得に対価を支払うべきモノだからです。というか、皆さん「礼金」という形で支払っています。礼金なしの物件でも、結局それは毎月の賃料に乗せられているだけの話です。
 であるならば、「弱い」賃借権であれば対価は少なくてすむ、つまり賃料が安くなるはずです。「大家の気分でいつ解約されるか分からないけど安い物件」が市場に出回ることになります。選択の幅が広がり、なかなか楽しそうです。

*1:引用文からは「あんた夜中に足音がうるさいから出て行って」と即日追い出しができますよね?