不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

成年後見人になって僕と契約してよ

 
ちょっと面白いニュースがありました。
 

 12月25日、札幌地裁の法廷。無人の被告席に、判決が告げられた。「別紙目録記載の建物の競売を命じる」。札幌市中央区にある男性(87)の自宅を競売にかけ、共同で所有する原告の不動産会社と代金を分け合え、という内容だ。
 男性は認知症。数年前、中古車を購入したが、年金が銀行口座に振り込まれるたびに引き出してしまうため、ローンが引き落とされない状態が続いた。このため自宅を差し押さえられ競売にかけられたが、親族が事情を説明していったんは競売を免れた。
 訴えを起こした不動産会社は、競売情報を日常的にチェックしており、自宅を共同所有していた男性の元妻から約2割の所有権を購入。男性に対して残る約8割の所有権を売るよう持ちかけたが断られ、2013年10月に提訴した。

URL変更のお知らせ−北海道新聞

 
この記事、書き方が悪いですよね? ちょっと読んで「なんで中古車ローンで不動産屋が競売にかけるんだ?」と思いましたもん。レトリックなんでしょうけど時系列捻ってる上に中古車ローン滞納で競売とか全然関係のない話挟むから分かりにくい
これ、ローン債権者による競売申立じゃなくて、共有物分割請求による競売ですね。
記事によると、弁護士が判断能力の欠如による競売停止の仮処分を求めているようです。しかし、少なくともこの男性の問題については解決にならないでしょうね。なんか意味あるのかなその仮処分
 

共有物分割請求

不動産を共有することはよくあることです。たとえば相続の時に不動産をそれぞれ持分1/2づつ共有するとか、夫婦でローンを出して物件を買った時に共有するとか。
このケースでは、男性が8割・元妻が2割持っていて、不動産屋が元妻の2割を買い取った、という状況です。
 
で。
これ分割請求をすることが可能なんですね。

各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。

民法第256条 - Wikibooks

分割の仕方にはいろいろありますが、この場合は住宅なのでのこぎりで切っちゃうわけにもいかないため、このいずれかになります。

  1. 売却して現金を分割する
  2. 不動産屋が男性から8割を買い取る
  3. 男性が不動産屋から2割を買い取る

1は競売ですね。競売停止の仮処分を求めているということになると、これはやりたくないようです。
2は記事によると男性に断られたようです。
となると、男性が求めているのは3ということになりますが……、ローン滞納のある年金暮らしの人が不動産を買うのは難しいんじゃないかなあ? 状況を見ると親族が買ってあげるとかなさそうですし。賃貸契約を結ぶつもりなんでしょうかね?
 
 
 

不動産屋が悪いの?

例によって、不動産屋が叩かれているようですが、これそんなにダメですかね?
いや、まあ、確実な取引をしようと思うなら親族の人に法定代理人になってもらって、とやるのがもちろんいいんでしょうけれど、不動産屋に「成年後見人になって僕と契約してよ」と言われても胡散臭いですもんねえ。療養看護義務があるからたまに嫌がられることもあるんですよね。すでに中古車ローンとかでトラブルになってるのに成年後見人がいなかった、というのはその辺にも理由があるんじゃないかな?
2割の持分を元妻から詐取したならともかく、正当に売買を行って得た持分であれば正当に分割請求をしてもいいように思うんですが、どうすればよかったんでしょうね。認知症患者には関わるな、ということでしょうか。まあ、なんかあった時には不動産屋叩いとけ、みたいな人もたくさんいるので話半分に聞いときますが。つーかこれ競売に出して自己競落して転売するんだろうけど、手間の割には儲かんないような気がすんだけどなあ。
 
 
 
このケースから学ぶべき教訓は、「離婚したら財産分与の時に不動産の共有を解消しておきましょう」ということだと思いました。