なぜ出版の世界にはこんなシステムがあるのでしょうか。ゴーストライターなんかに頼まずに、自分でちゃんと書くのが本分だろうというのは正論です。しかしここには、「著者」とゴーストと出版社の三者に、ちゃんとウィン・ウィン・ウィンの関係が成り立ってるんですよ。
書籍のゴーストライターというエコシステム|佐々木俊尚 blog
↑この記事にインスパイアされたので、書きます。
礼金というエコシステム
賃貸物件の礼金というものに誤解している人が多いようなので、ここで実状を少し書いてみます。
なぜ不動産屋の世界にはこんなシステムがあるのでしょうか。礼金なんかに頼らずに、家賃でちゃんと運営するのが本分だろうというのは正論です。しかしここには、大家と不動産屋と管理会社の三者に、ちゃんとウィン・ウィン・ウィンの関係が成り立ってるんですよ。
まず大家から見ると、経営者は不動産投資をすることに魅力を感じる人が多い。まあ名誉欲の面もあるし、キャッシュフローを増やしたいという欲求もあるでしょう。しかし彼らは、入居者募集をするのに慣れていません。そこで、プロの技術で物件募集してくれる人がいるというのなら、礼金を払ってもぜひ頼みたいということになるわけです。
では不動産屋の側のメリットは何か。もちろん第1にはお金の問題があります。さっきも書いたように(書いてないけど)不動産営業は歩合給であることが多い。そこで手っ取り早い売上として、礼金を広告料として受け取るわけです。
しかしこの仕事は、実はお金のためだけではありません。サラリーマン大家はどうかわかりませんが、地主などの資産家に関しては、入居者を決めることによって得られる知見や人間関係が、不動産営業個人にとっても非常に重要な蓄積になっていきます。だって「入居者募集」という大義名分で、その家の中にまで入り込んで、普通の営業だとなかなか聞けない資産状況まで存分にヒヤリングできるんです。これはめったいない経験じゃないですか。だから自分が興味のあるエリアでの礼金つきの空物件があると、目端の利く不動産営業なら「来た来た!是非礼バックお願いします!」と飛びつくわけです。
ちなみに不動産業界のことを知ってる人なら、こんなの当たり前の話で、とくだん隠すようなことでもありません。「どこどこの物件は礼金1.5ヶ月バックだった」みたいなことは業界内の普通の日常会話で出る話ですからね。とはいえ業界のことなど知る必要もない外部の人から非難の声が出てることは、真摯に受けとめなければならないとは思います。
さて、では管理会社にとっては礼金のメリットとは何か。これはもう明らかです。空室を持っていても、いつまでも入居者はやってきません。だったら強制的に礼金をつけてもらって、あとは募集のプロである不動産屋に任せておけば、きちっと予定通りに入居促進できる。やばそうな空室を、繁忙期が終わらないうちにきちんと契約できるというわけです。礼金は不動産屋が大家に分けてもらうわけですから、管理会社の持ち出しはありません。
というわけで、大家と不動産屋、管理会社はウィン・ウィン・ウィンの関係になっている。「とりあえず3月末までに引っ越さないと」という市場ニーズがあり、かかわる三者のあいだでエコシステムができあがっているわけです。
あれ? なんか利害関係者の一方のことを忘れてるような? 大家と不動産屋と管理会社とあと賃貸契約に誰か必要だったっけ? まあいいか、ウィン・ウィン・ウィン。
参考:家賃の下方硬直性は「広告料」があるから? - 不動産屋のラノベ読み