家賃の下方硬直性は「広告料」があるから?
すっかり忘れていましたが、つづきを引っ張っていたエントリがありましたので、つづきを書きたいと思います。
家賃の下方硬直性は「大家さんが頑張ってる」から - 不動産屋のラノベ読み
なんか半年経ってしまってすっかり旬を逃してしまったのですけれど、そろそろ異動期も近くなってますので、何かの参考になれば。
前回のエントリでは、
家賃に見る価格の下方硬直性: ニュースの社会科学的な裏側
↑この記事を受けて「物価が下がってるのに家賃が下がらないのはなぜだろう?」という疑問に「大家さんが自分の物件の価値を上げているから」という仮説を提示してみました。今回は別の視点から原因を示してみようと思いますが、こちらは妄想レベルですのであまり期待しないで下さい。
仲介は価格を調整する
まず、広告料とは何でしょうか。
そのお話をする前にたとえ話をします。
りんご農家が3人いたとします。そして、そのりんごを仕入れて消費者に売る仲買人が1人いるとします。さらにそのりんごを買う消費者が3人いるとします。仲買人は農家からりんご1個を90円で買い、消費者に100円で売り、10円の利益を3個分つまり30円の利益を出してるとします。
分かりにくいですかね?↓こんな感じです。
で、ある時、不景気なのかなんなのか、消費者が2人になってしまったとします。りんごは2個しか売れないことになりますね。そこで仲買人が「今年は不景気なので、85円じゃないと買わないよ」と言ったとします。そうしたら、3人の農家の内1人は売るのをやめてしまいました。
えーと、↓こんな感じです。
仲買人が30円の利益を確保してめでたしめでたしですね。
以上のような感じで、需要と供給のバランスが崩れた時の価格変動を、取引を仲介をする人がいることによって価格が安定的に調整されることがあります。
広告料とは
さて、広告料とは何かというと、大家から仲介に際しての広告の報酬として受け取る手数料です。つまり、「あなたがお部屋の広告をしてくれたので入居者が決まりました。ありがとう」という報酬なのです。
「え、それ仲介手数料と何が違うの? つか、広告は手数料分の仕事に含まれないの?」と、思われた方もいらっしゃると思います。全くごもっともな疑問ですが、これはいわゆる大人の事情によるもので、なぜそうなっているのかは後述します。
で。
まったく根拠はないんですが、この広告料が増えてるような気がするんです。
前述したとおり、不景気でお部屋を借りる人が減っても仲介者の利益が増えて賃料が維持されることがありえます。もし、広告料が増えているなら、賃料水準が下がらないということもありえるのではないでしょうか。
本当は統計調査などで数字を示したいところなんですが、広告料については、少なくとも私の知る限りそういった調査がありません。ですから、完全にこれは私の感覚の話です。
広告料はよくない
ところで、広告料はよくないと思います。私のお給料もここから出ていますので、偉そうなことは言えないのですが。
理由を3つ挙げます。
- 仲介を歪める
- 市場を歪める
- 宅建業法違反
ひとつずつ説明したいと思います。
仲介を歪める
たとえば、10万円の物件を仲介する場合、広告料がない物件は10万円の売上ですが、広告料1ヶ月の場合は20万円の売上です。営業は歩合給が多いので、どちらを不動産屋がおすすめしてきやすいかは自明ですよね。物件の紹介が条件のマッチングというより広告料の過多で決まってきてしまうこともあるかと思います。
もっと極端な話、不動産会社Aが募集してる物件に不動産会社Bが礼金を1ヶ月乗せて募集する、なんてことがあります。もちろんその礼金は「ウチが多く礼金をもらってきたので、その分広告料としてもらっていいですよね?」という扱いになります。
「大家としては、不動産屋に広告料払うより、賃料下げた方がもっと入居者が来るんじゃないの?」と考える人もいるかもしれません。しかし、2つの理由から大家さんは広告料を支払うことを選択しやすいです。
ひとつ目は、なんだかんだいっても物件情報を握ってるのは不動産屋である、ということです。不動産屋がその気になって、インターネットで募集をしなかったり来店客に紹介しなかったりすれば、たとえ賃料を下げたとしてもその情報はお部屋を探している人に届かないのです。
ふたつ目は、賃料を下げると他の入居者に見つかって「隣の部屋が賃料下げたんだからウチも下げてください」と交渉されることがあります。そして一度下げた賃料を上げることは、今の日本ではなかなか難しいです。
意見が分かれるところだと思いますが、正しい形の仲介というものは「顧客の利益を高めれば高めるほど、手数料をたくさんもらえる」というものだと思います。広告料の存在はその形から遠ざけると思います。
市場を歪める
景気が悪くなったり、人口が減ったり、空室が増えたり、そういうことがあれば賃貸需要が減ります。需要が減れば賃料が下がって均衡するのが市場の動きというものだと思います。
ところで、不動産屋としても賃貸需要が減れば客数が減り、賃料が下がれば客単価が減ります。同じ仕事で同じ仲介料でやってると食えなくなってきます。そういう流れもあって広告料が増えていると思います。しかし、それって、私たちがもらっていいお金なんでしょうか?
もちろん、需要が減っている中でも入居者を見つけてくる、というのは報酬をいただくだけの価値がある仕事だと思います。しかし、広告料1ヶ月とか2ヶ月とか、伝え聞くところによると札幌では5ヶ月っていうのもあるとか。意見の分かれるところかもしれませんが、それだけの価値を生み出してるとはとても思えないんです。需給バランスが崩れて下がるはずの賃料から抜いているように見えます。
つか、その利益って借りる側が取るべきじゃね?
そう思います。
宅建業法違反
上記2つの理由に比べ、こちらは議論の余地がないと思います。
広告料は宅建業法違反です。賃貸の仲介で得られる報酬は全部あわせて賃料の1.05ヶ月分まで。全部あわせて、です。仲介手数料1.05ヶ月分もらっている場合は、その他の報酬を得てはいけません。
ではなぜ、広告料なんてものが通用しているのでしょうか。国土交通省令によるとこうあります。
宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関し、第二から第六までの規定によるほか、報酬を受けることができない。ただし、依頼者の依頼によつて行う広告の料金に相当する額については、この限りでない。
http://www.mlit.go.jp/common/000005996.pdf
前述の「仲介手数料と何が違うの? 広告は手数料分の仕事に含まれないの?」という疑問に対する答えはこれです。「手数料としてもらうと業法違反になるから」
はっきりいって詭弁です。脱法行為です。
「お客さんいるんですけど、広告料オッケーですか?」というもらい方が、『依頼者の依頼によって行う広告』ですか? お客さんがいるならもう広告いらないでしょ? たとえ募集の初めから大家さんに説明をして広告料をもらう約束をしてたとしても、大家さんから依頼された広告ってどの部分ですか? そもそもなんで広告料はいつも1ヶ月分とか2ヶ月分とか賃料の倍数なの? たまたま? ありえねーでしょ。
そんな3つの理由から広告料はよくないと思います。
広告料反対
「でも、どこか1社が『ウチは広告料取りません』ってやれば、それは大家に対して差別化になるんじゃね? 不動産屋ってバカなの?」と思う人もいるかもしれません。
広告料を取らない不動産屋もたくさんいますが、あまり差別化にはならないようです。大家さんが不動産屋に求めるのは「どれだけ客を連れてきてくれるか」なんです。
実際に、「広告料反対」を打ち出した不動産屋さんも札幌にいたようです。
そこで、?アパオが中心となって、広告料に反対する会を開催します。
広告料に反対する会を開催します!!|札幌の不動産屋日記
大家さんや管理会社を結集し、将来的には、集団訴訟を計画しているそうです。
消費者金融に対する過払返還訴訟のように、払い過ぎた広告料を返してもらうという訴えで、大手であれば数十億円になるのではないでしょうか
大家さんや管理会社が自主的に払ったとしても、その広告に実体がないのであれば、裁判官によっては認めてくれるかもしれないそうです。
こういう運動が大きくなれば、広告料廃止は実現するかもしれません。
結果、こうなりました。
古い体質また大手の占有率が高くひずみが大きい札幌の賃貸業界を良い方向に変えるきっかけになってくれればと思っていましたが・・・
アパオが倒産|札幌不動産会社 経営日記
札幌のオーナー様の負担する高い広告料を削減するべく、努力されていたと聞きましたが、大手賃貸業者につぶされたのか、そもそも無理があったのか・・・理由はわかりませんが、不動産業界の古い体質の壁は厚いということでしょうか。
やはり出る釘は打たれるのか。
後発の業者さんということで差別化を狙った戦略だったのでしょうけど、なかなか世の中難しいものですねえ。