Googleマップで不動産検索が始まりましたね。
今回の不動産検索は、「株式会社ジアース」様とのコンテンツパートナーシップによって、実現しました。 エンジニアたるもの、大規模なデータを目の前にするとつい視覚化してみたくなるものです。 今回は、家賃の分布をヒートマップにして、視覚化してみました。
Google Japan Blog: 地図で探そう。Google マップの「不動産」検索
この「ジアース」さんは、以前の社名を「アイディーユー」と言いまして、Googleストリートビューが上陸する以前に類似のサービスである「ロケーションビュー」を公開していたり、あるいは不動産オークションサイトの代表格「マザーズオークション」を展開したりと、不動産についてユニークな取り組みをしている会社です。
不動産屋は別に困らない
「こんなサービスが始まると、不動産屋さんは大変じゃないの?」と思う人がいるかもしれません。
nippondanji これは凄い。不動産屋涙目では。
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どういたしまして、不動産屋にほとんど影響はありません。
なぜかというとですね。
この物件情報は「ジアース」さんからGoogleに提供されています。では、「ジアース」さんはどこから物件情報を仕入れているかというとわれわれ不動産屋なんです。そして不動産屋はどこから物件情報を得ているかというと、当然、大家さんですね。
ところで、Googleマップで不動産を探して、「この物件を借りたい」と思ったときはどうするでしょう。実はGoogleマップには問い合わせ先は書いていないため、「ジアース」さんにアクセスする必要があります。「ジアース」さんに入った問い合わせはどこに行くのかというと、物件情報を提供した不動産屋ですね。
まとめると、こうです。
物件情報の流れ
大家>不動産屋>ジアース>Googleマップ>ユーザー
問い合わせの流れ
大家<不動産屋<ジアース<Googleマップ<ユーザー
ちなみに、今まではこう。
物件情報の流れ
大家>不動産屋>(広告媒体)>ユーザー
問い合わせの流れ
大家<不動産屋<(広告媒体)<ユーザー
特に何の変わりもないことがお分かりいただけるかと思います。
ただ、気になる点がひとつ。
物件掲載が無料なのが気になる
実は「ジアース」さんに物件情報を掲載するのは無料です。
不動産業界の人でないとピンとこないと思いますが、これはなかなかすごい事なんです。
物件情報を掲載するというのは、つまりは広告を出稿するということでして、それを無料にするというのは広告業であるはずの不動産ポータルとしては主たる収益源を捨てているのです。
たとえば、不動産ポータルとして有名な「HOME'S」さんは物件あたり概ね500円/月かかります。100件掲載すればだいたい5万円です。それが無料なのです。どうやって飯を食うの?と思うでしょう。
「ジアース」さんは、不動産屋からの物件情報に課金していません。検索画面に表示されるバナー広告で収益をあげているようです。Googleと同じビジネスモデルですね。
しかし、なぜ、そんなビジネスモデルにしたのでしょう? 物件情報に課金した方が安定するはずです。そうしなかったのはなぜか。
直接掲載をにらんでいるのかも
ひとつには、「物件情報を多く掲載する」ためでしょう。Googleマップで情報を提供する以上、ある一定以上の物件情報数を確保する必要があったはずです。
ジアースに登録された全国の賃貸物件の情報は発表時点で約100万件。これは、「現時点で国内のすべての賃貸物件数の約1/3をカバーする」(ジアース 池添社長)とされている。
「Googleマップ」で賃貸物件の検索が可能に - ジアースと協業 | マイナビニュース
「ジアース」がオープンしたのは今年の5月ですから、わずか3ヶ月ほどで大手不動産ポータル「HOME'S」に匹敵する物件情報を確保しています。「1件あたりいくら」というビジネスでは、ここまでにはならなかったはずです。
そして、もうひとつ。
誰から聞いたとは言えないのですが、「無料掲載はGoogleとの提携条件の一つであったらしい」のです[要出典]。
なぜなんでしょうか。
推測なのですが。
Googleは、本当は大家から直接物件情報を得たいと思っているのではないでしょうか。
実は米国では、craigslist.org 等、数多く、無料の掲示板を”賃貸客付け”に使うということが、広く行われており、オーナーや管理会社が使えるネット上の無料の露出先には、事欠きません。
ネットによる賃貸客付け アメリカ編|米国/海外不動産投資
(中略)
私たちも、現在、ほぼ、100%、無料オンライン掲載で、客付けができています。
こういう状況のアメリカのGoogleから見ると、「情報屋」としての日本の不動産屋は「いらないもの」に見えるのではないでしょうか。
ところが。
日本で大家からの直接掲載をしようと思うと、おそらく宅建業法に引っかかるでしょう。
二 宅地建物取引業 宅地若しくは建物(建物の一部を含む。以下同じ。)の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為で業として行なうものをいう。
宅地建物取引業法
不動産屋を介して物件情報を得る分には「広告」でしょうけれど、大家から直接物件情報を得て顧客に提供するためには、たぶん宅建業法の免許が必要になると思います。それなりのコストとリスクを負うことになるでしょう。
ただ。この条文にある「業として」という部分ですが、それはこういう解釈で運用されています。
(1) 本号にいう「業として行なう」とは、宅地建物の取引を社会通念上事業の遂行とみることができる程度に行う状態を指すものであり、その判断は次の事項を参考に諸要因を勘案して総合的に行われるものとする。
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/1_6_bt_000268.html
(2) 判断基準
(中略)
2. 取引の目的
利益を目的とするものは事業性が高く、特定の資金需要の充足を目的とするものは事業性が低い。
(注)特定の資金需要の例としては、相続税の納税、住み替えに伴う既存住宅の処分等利益を得るために行うものではないものがある。
これを素直に解釈すると、掲載に対価を取らない場合事業性が低いと解釈されて「宅建業者」と見なされない、かもしれません。それを見越しての「無料掲載」なのかなー、などと思ったりもします。もし、本当にそうなれば、大家は不動産屋を介さずに入居者を募集できるルートを持つことになり、不動産屋は顧客を奪われることになるでしょう。
とても困ります。
まあ、たぶん、実際に「無料掲載」を選んだのはひとつ目の理由のほうが大きいのでしょう。
しかしそれでも、Googleが提携先に今までの積み上げがあり物件も豊富な「HOME'S」「アットホーム」「SUUMO」を選ばなかったのは何故なんだろう、と考えた時、ちょっとドキドキしてきませんか?