不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

この日本で、売買不動産仲介は悪い業界だった

 

 タイトルは↑これの改変。

 
 
 賃貸管理をされているはてなブロガーの方がこういう記事を書いてました。
 

それで契約が成立すれば、その業者は売主からも買い主からも手数料がもらえます。
これを「両手」と余分ですが、要するに1回の取引きで手数料が2倍になるわけです。

(略)

また、両手取引きの場合は利益相反が起こります。
価格を上げれば売主は得をしますが買い主は損をします。
価格を下げれば買い主は得をしますが売主は損をします。
つまり、両手の場合、業者は必ずどちらかを損させるわけです。

www.b-chan.jp

 
 
 これについて書きます。
 
 

それは「利益相反」じゃないです

また、両手取引きの場合は利益相反が起こります。
価格を上げれば売主は得をしますが買い主は損をします。
価格を下げれば買い主は得をしますが売主は損をします。
つまり、両手の場合、業者は必ずどちらかを損させるわけです。

 この部分ですが、これは一般的に言う「利益相反」ではないです。
 
 一般的な「利益相反」は、このケースで言うと代理人の利益と売主または買主の利益が相反することです。
 たとえば、代理人が売主と共通の利害がある場合、買主に不利な契約をした方が代理人に得になるでしょう。こういった場合を「利益相反」と呼ぶことが多いはずです。

利益相反とは、政治家、企業経営者、弁護士、医療関係者、研究者などのように、信託を得て職務を行う地位にある人物において、立場上追求すべき利益・目的(利害関心)と、他に有している立場としての、あるいは個人としての利益(利害関心)とが競合・相反している状態をいう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%A9%E7%9B%8A%E7%9B%B8%E5%8F%8D%E8%A1%8C%E7%82%BAja.wikipedia.org

 法人の代表者が法人と自分との契約をする、後見人が被後見人と自分との契約をする、こういった話のはずです。
 
 
 
 ところで、これとは別に「双方代理」というものがあります。

同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りではない。

https://ja.wikibooks.org/wiki/%E6%B0%91%E6%B3%95%E7%AC%AC108%E6%9D%A1ja.wikibooks.org

 この民法の規定は、双方の代理人になることによって利益相反が起きやすい、という理由によるものだと思います。おそらく、あの記事はこの二つを混同したのではないでしょうか。
 
 
 
 そもそも、不動産の売買は法律行為です。
 そして、法律行為の代理人を業としてできるのは弁護士や司法書士など一部の限られた職業だけです。
 もし「双方代理」に引っかかるのであるならば、片手であろうと法律行為の代理人ですから業務をやってはいけない理屈になりますよね。
 
 
 

よく提唱される「両手禁止」とは、実は「囲い込み禁止」のことです

 

実は世の中には売却の依頼を受けても、レインズに登録しない業者がいるのです。
レインズに登録せずに、自分で買い主を探すのです。
なぜならそれにメリットがあるからです。
不動産仲介業では、売主から仲介手数料がもらえます。
そして買い主からも仲介手数料がもらえます。



もし物件をレインズに登録してしまうと、レインズを見た別の仲介業者が買い主を連れてきます。
それで契約が成立すれば、売主側の仲介業者は売主から、買い主側の仲介業者は買い主から、それぞれ手数料を得ます。
それぞれが片方から手数料をもらうんですね。
これを業界では「片手」と呼びます。
しかし、もしレインズに登録しなければ、他の業者はその物件のことを知ることは無いので、売主側の業者が独り占めして買い主を探せるんですね。
それで契約が成立すれば、その業者は売主からも買い主からも手数料がもらえます。
これを「両手」と余分ですが、要するに1回の取引きで手数料が2倍になるわけです。

 これは「囲い込み」と呼ばれる問題です。

そのひとつが物件の「囲い込み」への対策だ。
売買の仲介手数料を売り主・買い主の両者から得る両手取りために、レインズに物件情報を出していても別の会社が問い合わせたとき紹介を断るといった、「囲い込み」に対しては抜本的な改善を行う。

www.zenchin.com

公益財団法人の東日本不動産流通機構は、不動産仲介取引の際に不当に物件を紹介しない“囲い込み”の禁止に乗り出した。会員向け情報システム「レインズ」の利用規程を16年振りに改訂。“囲い込み”を禁じる規程や処分規程を盛り込んだ。

kenplatz.nikkeibp.co.jp

 
「両手禁止」を提唱する人たちは、その理由に「囲い込みによって売主買主双方の機会損失が生じている」を挙げている方が多いです。
 つまり、「囲い込みを禁止するのは現実には無理だから、いっそのこと両手取引を全部禁止すれば囲い込みもできないだろ」ということです。
 個人的にはいささか乱暴な意見だと思っています。
 
「囲い込み」に対しての私の意見はこうです。

不動産囲い込み批判に対する、不動産プロたちの見解 - Togetterまとめ

囲い込みというのはつまり、「XXXX先生の作品が読めるのはジャンプだけ!」というものであって、それを知らない読者が「XXXX先生の作品を読みたいんだけどなかなか載らないね」とマガジンを見つめているのが問題。

2015/06/12 13:57

 
 そうなんですよ。客付不動産業者が「その物件はXXX不動産が取り扱ってますよ」と教えてあげれば済む話なはずです。
 え? 「そんなことしたら、俺たちの売り上げが減るだろう」って?
 ですよね。でも、それを言ったら、両手禁止で売り上げが減る業者もいますよね?
「囲い込み」を問題視するのも結構なんですけど、そこに顧客に対する視点があるように見えないんですよ。結局、「ウチに客を回せ」と言ってるだけじゃないですか?
 顧客は本当にその業者と取引したいんですか? ほんとはどっちでもいいんじゃないですか? 「XXX不動産を仲介に入れないと契約しない」なんてこと、それほど多くないんじゃないですか?
 
 試しに、消費者にアンケートでも取ってみたらいいと思いますよ。
「あなたはどちらの不動産業者から買いたいですか?」

  1. 売主と直接やりとりをしている不動産業者
  2. 他の不動産業者を通してやりとりしている不動産業者

 2が1より多くなるとは、とても思えないんですけどね。
 
 
 

「両手禁止」の効果は疑問です

また、利益相反防止のため、両手取引きは禁止されています。

アメリカの売買不動産仲介業界はまともであり、日本の売買不動産仲介業界は汚れているわけです。

 
「両手禁止」を提唱する人たちのもう一つの根拠に「片手なら不動産屋も私のために働いてくれるはず」というものがあります。
 
 はっきり言いましょう。
 それは幻想です。現実を見てください。
 不動産屋がお金を払ってくれる人のために仕事をするとは限りません。

不動産屋さんの営業担当者が自分の家を売ったときのデータと、彼らがお客の家を売ったときのデータだ。先ほど触れたシカゴの住宅先ほど触れたシカゴの住宅売買のデータ10万件を分析すると、ありとあらゆる変数――場所、築年数、家の質、外観、など――を調整してもなお、不動産屋さんの営業担当者は自分の家を平均で10日長く市場に出していて、3%強、つまり3万ドルの家なら1万ドル高く売却していることが分かった。

https://books.google.co.jp/books?id=xhnuAwAAQBAJ&pg=RA1-PA2#v=onepage

 顧客の家を売る時は3%ほど安く売っている、というデータです。
 これは「両手禁止」で「まとも」なはずのアメリカの売買不動産仲介業界です。片手取引なので、不動産業者があなたの利益を最大化するために働いてくれるはずなんですが……
 
 試しに、不動産屋にアンケートでも取ってみたらいいと思いますよ。
「あなたは、両手と、売り側片手と、どちらの時に高く売ってますか?」

  1. 両手
  2. 売り側片手
  3. 変わらない

 自分の経験上、3が一番多くなると思います。
 
 
 

結局のところエージェンシー問題です

 この件は、結局のところエージェンシー問題だと思います。
 なんか疲れてしまったので、医療におけるエージェンシー問題をまるっと引用させていただきます。

問題は医療において医師が「不完全なエージェント(Imperfect agent)」であることです。医師が患者さんの利益を最大化するためだけに集中できている(=完全なエージェント)のであれば問題はありません。しかし現実には、医師は(1)患者さんの利益(健康)を最大化するという目的と、(2)自分の(経済的な)利益を最大化するという目的の、2つの相反する目的があるということです。実際には患者さんの健康上の利益を犠牲にしてまで自分の利益を最大化する医師はいないと思いますが、医学的にそれほど重要でない部分(英語でmarginalと表現します)に関しては影響を与える可能性があります。先ほどの転倒した男の子を医師が適切に診察したところ、大きな問題はないので帰宅して様子を見るのが良いと判断したとします。それを医師がお母さんに説明すると「先生、心配だから念のため頭のCTを撮ってください。」と言われたとします。ここで「念のため」頭部CTを撮影することは男の子の将来のがんのリスクを増やす可能性があるという研究結果があるので、不必要な頭部CTは避けたいものです。しかしこのクリニックにはCTがあってある程度使わないとクリニックが赤字になってしまうとしたら、「お母さんを安心させるため」という理由でCTを撮影する医師もいると思います。
 
(略)
 
医師は患者さんの健康上の利益と、自分の経済的利益の両方を最大限しようとします。もしこの患者さんの利益と、自分の利益が相反したときに、トレードオフが必要になります。これが医師が「不完全なエージェント」であると言われる所以です。これは医師が自分勝手であるとかプロフェッショナルではないという道徳の話ではなく、構造上な問題です

healthpolicyhealthecon.com

 不動産屋だって、どうせなら人の役に立つ仕事をしてお金をもらう方がいいに決まっています。
 でも、100件案内しても契約をしないと一切お金がもらえないのですから、どうしても契約させるインセンティブが働きます。
 これは「両手」とは関係ないことです。
 
 
 

賃貸契約の「双方代理」については? 管理業務の「双方代理」については?

 ちなみに。
 id:B-CHANは、賃貸管理業をやってらっしゃるとのこと、自社管理物件についても必ず「分かれ」で仲介されていますか?
 また、賃貸管理をしていると、家賃交渉・退去立会・修繕等、貸主借主の利益相反になることが多いと思いますが、双方代理とならないようにどのような取り組みをされているのでしょうか。第三者に仲介を依頼されているのですか?
 参考までに教えていただけますと幸いです。
 
 
 
 それとも。
 日本の賃貸管理業は悪い業界ですか?