不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

ネットがあればできる「賃貸vs持ち家」論争向け家賃設定の2つの方法。あるいは、なぜFPは24年ローンを選んだか。

 
わー。ラノベみたいな長いタイトルを目指したら、なんか高校文芸部の文化祭用小冊子にありそうな下手くそなタイトルになっちゃいました。だれか、記事タイトルだけのゴーストライターやってくれないですかね?
 
さて。
こんな記事が話題になっていました。

そこで今回は年収500万円、800万円、1500万円の世帯ごとに標準的な条件を設定。持ち家と賃貸の住宅費累計額を比較してみた。

年収別シミュレーション「賃貸vs持ち家」どちらがいいか:PRESIDENT Online - プレジデント

賃貸vs持ち家論争の記事ですが、「年収別」としたところにセンスを感じますね。試算結果はリンク先を参照していただきたいですが、記事はこのように締められています。

どちらのプランを選んでもリスクはある。持ち家と賃貸のどちらが得かということにこだわるより、選んだプランのリスクを回避する努力をしたほうが建設的ではないだろうか。

この結論には賛成ですね。具体的にどのような「リスクを回避する努力」があるかがまったく書いていないのも、読者を悩ませる感じで好印象ですね。どうすればいいか知りたくなったら誰かに相談するといいでしょうね、たとえばFPとか不動産屋とか
 
ただ。
この記事を読んでいて気になる点がありましたので、記事にします。
 
ひとつご注意。
他人をけなす内容が苦手な方は、『「賃貸vs持ち家」論争用家賃設定方法』というパラグラフまで読み飛ばしてください。あと、冗長なのが嫌いな人も。
 

なんで24年なんだろう

これ、なんでローン期間24年なんでしょうね。
いやもちろん、わかってますよ、40歳から試算開始した時には無理のない借入期間ですよね。でもなんで40歳からスタートなんでしょう。
フラット35利用者調査:住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)
↑この資料を見ると新築マンションでに借入年齢は30代が48.7%で、30歳未満の11.3%を併せると過半を超えます。たしかに平均年齢は40歳ぐらいなんですがこれは上に伸びているせいで中央値は38歳ですし、三大都市圏に限ると「30〜34歳」が最頻区間です。35歳ぐらいの設定ではじめてもよかったはずなんですが、なぜ40歳なんでしょうか
 
実は、文中にヒントがあります。

賃貸プランの家賃は、持ち家を買った場合の毎月のローン返済額と同額に設定した。

http://president.jp/articles/-/11897

これですね。30歳スタートにすると35年ローンでも別にかまわないはずですが、そうすると毎月のローン返済額が下がって設定家賃も下がります。結果、賃貸に有利になってしまうのです。
たとえば、2%24年2500万円だと10.9万円ですが、これが35年に延びると8.3万円になり、まったく家賃設定が違ってくるのが分かると思います。
 
つまり、「なぜ24年ローンなのか」の答えは、こうです。「35年ローンにすると計算がおかしくなるから」
 

ローン支払い額で家賃相場を出してはいけない。

「いやしかし、24年ローンというのが平均的な借入期間なら、その計算にも妥当性があるんじゃないか?」とおっしゃるかもしれません。
しかし、やはり同資料を見ると、2012年度の償還期間は平均31年、中央値は35年です。フラット35という偏りはあるにせよ、現実にも30年超のローンが一般的です。
 
そもそも、家賃の相場をローン支払い額から計算しようというのが間違っています。
ちょっと想像してみてください。あなたが賃貸物件を借りようとする時に、大家のローン支払い額を気にしますか?「この大家さんはローン苦しそうだから、少し高く借りよう」とか配慮したりしますか? しないですよね? 家賃相場というのは貸し手と借り手がそれぞれ歩み寄って形成されるものです。大家が「ローン支払いが高いから家賃を高くして募集しよう」と考えても、それを借りる人がいなければ話にならないんです。
貸し手のローン期間によって家賃が変わるなんて算定方法は、全然的外れなんですよ。
それっぽい数字になっているのはたまたまか、あるいは狙ってそれっぽい期間を設定したか、のどちらかです。
 
 
 

「賃貸vs持ち家」論争用家賃設定方法

さて。
「あの記事はダメだ!」と批判してばかりではなんなので、ここで賃貸vs持ち家論争をする時にそれらしい家賃を設定する方法を2つ紹介しましょう。
ちなみに、上記でけちょんけちょんにけなした「ローン支払い還元法」によると、2500万円の物件の家賃は9.8万円ぐらい*1になるはずです。
 

マンションPERを参照する

1つ目は東京カンテイさんの「マンションPER」を利用する方法です。

例えば、マンションPERが23.98であれば、その駅の新築マンション平均価格は駅勢圏賃料相場の23.98年分に相当する(=賃料換算で23.98年で回収できる)ということになる。一般にマンションPERが低ければ収益性が高く、反対に高ければ収益性は低い。

東京カンテイ、「2013年新築マンションPER」発表 | スーモジャーナル - 住まい・暮らしのニュース・コラムサイト

2013年マンションPERによると首都圏の平均は23.98ということですから、2500/23.98/12=8.7万円ぐらいと出ました。
 

住まいサーフィンを参照する

2つ目はアトラクターズ・ラボさんの「住まいサーフィン」を利用する方法です。

ホームページ上で無料公開している新築分譲マンション価格と賃料相場を利用して、単純利回りを算出している。
 利回り=賃料×12ケ月分/新築分譲価格

マンション利回りレポート | マンションの価格・評価・査定・相場情報満載 住まいサーフィン

たとえば、はてな東京オフィスの最寄り駅の表参道*2で見てみると4.1%ということですから、2500*.041/12=8.5万円ぐらいと出ました。
 

その他のサイト

ネクストさんの「見える!賃貸経営」はその地域の賃貸相場はひと目で分かります。通常「賃貸vs持ち家」論争では公平のため同程度の物件を比較しますが、その前提を崩してもよい個人のライフプランニングにはこちらを使用してもよいでしょう。
たとえば、はてな東京オフィスのある港区はこんな感じ。
港区の賃貸需要・家賃相場や空室率|見える!賃貸経営 | HOME'S不動産投資
 
マンションリサーチさんの「マンションナビ」は、物件の現在の想定価格と想定賃料を算定してくれます。自分の地元だと若干高めに出てるのが気になりますが、ターゲットにしている物件が明確ならこちらを使用してもよいでしょう。
たとえば、はてな東京オフィスに一番近い物件はこちらのようです。
http://t23m-navi.jp/indexes/d/1303
ストリートビューだともう解体されてますね(w
 
 
 

結論

そういうわけで結論です。
 

専門家を頼りましょう

あの記事を読んで「なるほど!」と思ってしまうようなら不動産リテラシーが低いかもしれないので、もっと勉強するか、諦めて信頼できる専門家を頼りましょう。たとえばFPとか不動産屋とか
 

田舎者はフィーリングで

首都圏や三大都市圏はある程度データが整っているので恵まれていますが、地方都市にはそのような情報がありませんので、フィーリング勝負だと思ってください。というか「地方都市でマンションや家を買って得することはあり得ない」と思っておきましょう。どうせ人口は減りますし、50年後には夕張のようになってるかもしれないですし、そのぐらいの覚悟の方が気が楽です。

*1:頭金を引いた2250万円を2%24年元利均等で計算した月額

*2:2500万円で買える物件はないでしょうけど