不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

「あとXX年使えます」|建築不動産クラスタ交流会の件その2

 
 前回の続きです。
 

不動産の流動性を上げると不動産屋は儲かるか問題

 @yokohamastyleさんは「不動産の流動性を上げて取引の階数を増やせば、仲介手数料を減らしても不動産業界は活発になる」というご意見でした。
 それに対して私は「住宅産業のパイが縮小してるから、流動性を上げても不動産屋の取り分は増やせないのではないか」と質問致しました。これはどういうことかというとですね。
 国内の総住居費というのは以下のように表しておおむね問題ないでしょう。

 人口 × 平均住居費等

 このうちの人口については明るい未来が見えないです。住居費はどうでしょうか。
 家計調査の長期時系列データ(年)より、「住居費」と「土地家屋借金返済」を抜き出して合計してみました。

平成12年 56570
平成13年 58428
平成14年 57866
平成15年 55412
平成16年 56680
平成17年 54550
平成18年 54316
平成19年 55116
平成20年 56633
平成21年 56514

 あまり変動が見られません。「実収入」が減っていることを考えると健闘しているといえなくもないですが、それでも住宅産業のパイが縮小しているのは間違いないでしょう。縮小している業界で取引量を増やしても不動産屋の取り分である仲介料収入の総量を増やすためには、たとえば建築費が劇的に下がるとか、たとえば地価が劇的に下がるとか、そういった構造の変化がないと難しいでしょう。
 

中古住宅の価値減少が問題

 こういった問いに対して、@nagashimaosamuこと長嶋修さんをはじめ、多くの方が仰る回答は「中古住宅の価値の見直し」です。
 住宅を買ったはいいが売るときには建物はほとんど価値なし、というのが現状です。バブルまではそれでも地価上昇分で埋め合わせができましたが、地価も下がってる今、住宅の資産劣化はひどい状況だと思います。ここを解決して、たとえば「3000万円で買った住宅を10年後に2800万円で売れる」とかなら、今まで資産劣化によって失われていた部分が住居費を補います。
 そういった構造変革が起これば、そこに生まれたお金を不動産屋がメシの種にすることもできるでしょう、上手くやれば。
 ただし、この構造変革の利益というのは1順してしまえば終了な訳でして、最終的には人口が増えない限り斜陽産業であることは間違いがないと思います。不動産業界の偉い人が移民政策のロビイ活動をしないのは何故なんだろう、と不思議で仕方がないのですが、ま、移民が上手くいっても成果が上がるのは自分らが死んだ後の話だからどうでもいいのかもしれませんね。
 

住宅を長持ちさせよう

 さて。
 では、中古住宅の価値が減らないようにするためにはどうしたらいいのか。
 それは単純に考えて「長持ちさせる」ということです。
 ざっくり計算してみましょう。賃料月10万円の住宅と全く同質の家があったとします。これをDCF法(割引率5%)で価値を出します(DCF法の説明は省略しますので、ご興味のある方はウィキペディアとかを参照してください)。毎年120万円の収入があり、最終年には解体費として150万円かかると想定します。
 
 50年使える住宅の新築価値は約2,135万円。10年後には約1923万円に価値が下がります。およそ1割価値が落ちています
 25年使える住宅の新築価値は約1,218万円。10年後には約500万円に価値が下がります。およそ6割価値が落ちています
 
 まあ、新築価値の違いにもびっくりですが、価値の落ち方の差もびっくりですね。もしこういう市場であれば、50年住宅を買って10年後に売っても200万円のロスで済んじゃう。1年あたり20万円。賃貸派の私も棄教せざるを得ないほど、家を買うことがオトクになります。それだけ長持ちする家を買うのはオトクということですね。
 
「適当なこと書いてんじゃねーよ、Lhankor_Mhy」という声が聞こえてきそうなので、補足しておきます。
 この計算だと「あと何年使えるか」に価値が依存します。ですので、50年住宅築後25年の物件は25年住宅と同じ価値です。使用できる残存期間が少なくなればなるほど、フォークボールの軌跡のように急激に価値が落ちます。
 つまり、長持ちする住宅であっても使用期間が切れかけの物件を買うのはやっぱりリスキーということです。
 ここ、重要です。
 

ババを引くのは誰だ問題

 で。
 実は「住宅を長持ちさせよう」という政策はすでにあります、福田総理時代に始まった総理肝いりの「長期優良住宅」です。ですので、時間はかかるかもしれませんが、今後長持ちする住宅は増えていくでしょう。
 
 でも、「すべて解決、問題なし」とはいかないんですね。それは何故か。
 前節で書いたとおり、住宅の価値は「あと何年使えるか」に依存してると言っていいです。で、長期優良住宅が登場して、市場において通常の住宅と混在するようになりました。売り手と買い手のお互いが全ての情報を共有するような、理想の市場であればこれでも問題ありません。「50年住宅築後10年の物件」と「25年住宅築後10年の物件」という全く価値の違う住宅は、全く違うものとして取り扱われます。
 しかし、現実の市場は異なります。売主が知ってることを買主が知ってるとは限らない。「50年住宅築後10年の物件」と「25年住宅築後10年の物件」は同じく「築後10年の物件」として流通します。
 これは、前回も書いたレモン市場問題です! 買い手が「50年住宅」と「25年住宅」を見分けることができなければ、当然に「ババを引く」ことを恐れます。ですから「築後10年の物件」は25年住宅である前提の価格でしか取引されません。結果、価値のあるはずの「50年住宅」はその価値に見合う価格で市場に出回らないことになります。つまり、「長持ちする住宅」を作ったのに、やはり「住宅資産は劣化する」ことから抜け出せないのです。
 では、どのように解決すればよいのでしょうか。
 

「あとXX年使えます」

「『長期優良住宅』であることを表示義務付けすればいいんじゃね?」という意見があると思います。それは一つの解決策です。建築クラスタの人に怒られるかもしれませんが、私は鑑定評価基準を変更して、たとえば「長期優良住宅」は経済価値を50年と評価するような差別化を図るべきだと考えます*1。鑑定基準が変われば鑑定士はもちろん、ちょっと気の利いた不動産屋から価格査定を調整し始めるでしょう。すぐにとは行きませんが、少しずつ相場観が変わっていくはずです。
 ただ、さきほど「建築クラスタの人に怒られる」と書きましたが、「長期優良住宅」が全てではないのです。伝統的な工法でも長持ちする住宅は作れますし、逆に最新技術を使ったところ「長期優良住宅」に適合しなくなった、ということもあり得ます。「長期優良住宅」だけ差別化するのは、ずいぶん目の荒いザルであると言わざるを得ません。しかし、それでも現在の「底の抜けたバケツ」よりはマシです。とりあえず着手できるものから着手し、後から手当てをしていく方が現実的だと考えています。
 もっと言えば、工法などからの視点だけでは足りません。中古住宅であれば、周辺環境や修繕履歴などによって劣化状況が変わります。住宅の価値が「使用期間の残存」依存するのであれば、取引の都度にそれを調査する必要があります。これにはホームインスペクターの皆さんが重要な役割を果たすでしょう。
 
 つまり、ひと言でまとめると。
 我々不動産屋は「その住宅はあと平均XX年使えます」ということを明示すべきです
 
 できれば、使用中に「想定される修繕費用」も示すと良いでしょう。
 これは大変怖いことです。下手をすれば訴えられます。間違いなく、そのための保険が必須となるでしょう。残存期間を算定する基準も決めなくてはならないですし、その運用にもスキルが必要になるでしょう。本当に大変な仕事になると思います。「そこまでしなくても」と嫌がる方もいらっしゃるでしょう。
 でも、同業者の皆さん、投資物件売るときにどうしてます? レントロール提出するのはもちろん、大雑把に事業計画作るでしょう? だいたいの修繕費の予定、計画に入れますでしょう? 「XX年目に解体」とか、出口の想定もするでしょう? それで、良い事業計画とかできると「さすが俺だな。この仕事はこんな安い手数料じゃ合わないぜw」とか悦に入ったりするでしょう?
 
 そういうことだと思いますよ。

*1:当然税金の優遇をセットで