不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

日本の住宅はもう寿命が短くないかもしれないことと、その価格への影響について

 
こういう記事が話題になってました。

平成8年に国土交通省が試算したデータによれば、日本の住宅が平均築26年で建て替えられるのに対し、アメリカは築44年、イギリスは築75年。日本の住宅はなぜこんなに寿命が短いのだろうか?

http://r25.yahoo.co.jp/fushigi/wxr_detail/?id=20130429-00029437-r25

 
一方で、こんな研究をした人もいます。

1980 年には28.6 年であるが(略)2000 年には47.2 年と、20 年の間に20 年程度延びている

http://www.f.waseda.jp/ykom/aijtran2004tutumi.pdf

また、はてなでこういう記事もありました。

現在残っている住宅の平均寿命に相当するものを住宅の残存年数の統計から推定すると、住宅の平均寿命は40年を超え50年に近いくらいだと思われてならない。

住宅の平均寿命は本当に20年程度なのか? - HPO機密日誌

これ、建築学会の研究と同じようなことを数年も前に指摘してるわけで、はてなにもすごい人もいますね。
 
そういうわけで、おそらく日本の住宅の寿命は50年を超えアメリカ並みになってきているのだろうと思われます。
 

寿命の伸長は価格にどのような影響を与えるか

さて。
不動産屋としては「戸建の寿命がだんだん延びてるのは分かった。じゃあ、それを織り込んだ価格はどうなるんだ?」という点に興味が移ります。
前掲の研究によると、最近の建築になればなるほど寿命が延びているわけですから、「築5年」と「築10年」は見た目の差「5年」より耐用年数に差が出るということになります。であるならば価格にも見た目より差が出るのではないでしょうか。
そういうわけで、やってみます。
 
まず、前掲の研究から建物の寿命を比例関係とみなして

1.15263 (year-1980)+31.2

としてしまいます。これですと、2014年築の建物は寿命70年となるわけです。さすがに現実には、どこかでグラフがお辞儀をしてくると思いますが、今回はこれをこのまま使うことにします。不動産屋のやることですから大目に見てください。
 

築年数が5年古くなると耐用年数が10年減る

さて、築年数ごとの残存耐用年数を見てみましょう。

築後 残存耐用年数
5年 60.8年
10年 50.0年
15年 39.3年
20年 28.5年
35年 -3.8年

概ね、築年数の差の倍、耐用年数が減っていることになります。
つまり、築年数が5年古くなると耐用年数が10年減る、と考えてよいでしょう。
 

価格は1.2倍程度になることも

次に価格にどのような影響が出るか見てみます。
築年数と価格の関係を「経年係数」という数値で表してみます。新築時が1.0だとした時の数値です。0.5であれば1000万円で新築した建物が500万円になる、ということです。
固定資産税の評価で「家屋経年減点補正率基準表」というものがあります。あれは築1年の建物を0.8、耐用年数をすぎた建物を0.2と評価するのですが、それをそのまま使ってみます。係数の求め方は定率法とも定額法とも違うようなのですが、ここは簡単のために定額法もどきで計算してみます。不動産屋のやることですから大目に見てください。

築後 経年係数
5年 0.76
10年 0.71
15年 0.64
20年 0.56

今買うなら、概ね築20年の建物は新築時の半額、という評価になります。おそらく、大抵の不動産屋さんは「そりゃ高い」と感じたと思います。
もう少し分かりやすく、グラフにして比較してみましょう。

青い線は今まで計算したとおり寿命が延びていることを補正したものです。
赤い線はよく言われる「35年経ったら建物はもう価値がない」を参考に、寿命を一律35年とした場合の価格です。不動産屋さんの価格査定はどっちかというとこちらのイメージに近いはずです。
大分開きが見られますね。築20年近傍でおよそ1.2倍ほどの価格差があります。もし1000万円で新築した建物なら、560万円対460万円と、だいたい100万円の差になります。
 

現在の築20年と10年後の築20年では価格が7%違う

築20年の「経年係数」が0.56と計算しましたが、よく考えますとこれは「現在の築20年」であって、建物の寿命が延びているなら「未来における築20年」の建物価格は違うものになっているはずです。
「10年後の築20年」を計算してみますと、0.60となりました。「現在の築20年」と比べて7%ほど価格が上がっています。
 

現実の市場との乖離をどう見るか

さて、ざっくり計算してみましたが、これをどう見るべきなんでしょうか。
まず言えることは「現実の市場は建物の寿命が延びていることを織り込まないだろう」ということです。いろいろな要因がありますが、銀行が評価方法を変えることでもしない限り、まだしばらくの間、市場は「35年経ったら建物はもう価値がない」と見つづけるでしょう。
しかし、建物の寿命はそれでも延びているのですから、利用価値としては上がっています。どう考えるのかは難しいところでしょうけれど、自己利用のために住宅を買う場合、新築住宅と比べて中古住宅は、特に築20年近傍の物件はオトクであると言ってもいいのではないでしょうか。
 

利回りはどう見るべきか

ところで、不動産の評価方法には今までのような再調達原価法もありますが、利回りから算出する収益還元法というやり方もあります。これは「この家なら家賃が年間200万円取れるから利回り5%として4000万円」みたいな評価方法です。
さて、この想定家賃を基準とした方法の場合、どのようになるでしょうか。寿命が倍になると家賃も倍になるでしょうか。
それはないでしょう。賃貸住宅の入居者は「あとこの建物がどれぐらいもつか」などということはあまり気にしないからです。古い建物は設備も古くなる傾向にありますから、建物寿命の伸長は家賃にほとんど影響がないと考えてよいでしょう。
このことは、DCFで見たときの価値と建物寿命の伸長による価値上昇との間で、奇妙なギャップを生むような気がします。このギャップはなんなのか、私にはちょっとわかりません。現在でも「投資物件」と「持ち家」には「持ち家プレミアム」とでも言うべき価格ギャップが存在します。これが広がっていくということなのでしょうか。