長文エントリですので、先にまとめ。
- 更新料はやめるインセンティブがないかも。
- 選択できるオプションを増やすと、消費者はかえって「損した」と感じる事がある。
- 消費者は金銭感覚を錯覚しやすい。
Aさんは10万円のマンションを借りることにしました。気に入らない条件があったので大家のBさんに条件を外してくれるように交渉したところ、Bさんは「賃料xxxx円上げてもいいですか」と交換条件を出してきました。
Aさんは10万円のマンションを借りることにしました。気に入ら… - 人力検索はてな
さて、あなたがAさんとBさんに公平な条件だと思うものは?
という「更新料1ヵ月」「礼金1ヵ月」「東京ルールの修繕特約」が賃料にするとどれぐらいに当たるか、アンケートをしてみました。
目的
「更新料なし賃料上げ」で募集をかけた方が訴訟リスクのある「更新料1ヵ月」募集よりも結果的にオトクである事を示そうという目的のアンケートでした。
予想
更新料については、2年更新で賃料1ヵ月分なのですから単純計算で賃料24分の1ヵ月分だいだい4,000円がイコールになります。更新時期以外の退去で損になってしまいますので、短期間居住の場合、間を取って半分の2,000円という考えも成り立ちます。つまり「10.4万円以下」「10.2万円以下」あたりがマジョリティ回答になるだろうと予想していました。
礼金については、どの程度で退去するかによって変わってきます。6年ぐらいで退去する場合、賃料72分の1ヵ月分1,400円が合理的ですから、「10.2万円以下」がマジョリティ回答と予測しています。
東京ルールについては、「10万円」という答えも結構あるかな、と思っていました。「自然損耗については大家負担」という権利意識が広まりつつあるからです。もともと紛争防止のルールなはずで、今まで入居者が負担していたリスクを大家が負担するならば、賃料上げは仕方がないと思うのですけれど。
結果
更新料(2年ごと)1ヵ月分の交換条件として | |
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更新料ってなんですか。 | ![]() |
賃料10万円が公平。 | ![]() |
賃料10.1万円以下が公平。 | ![]() |
賃料10.2万円以下が公平。 | ![]() |
賃料10.4万円以下が公平。 | ![]() |
賃料10.6万円以下が公平。 | ![]() |
賃料10.8万円以下が公平。 | ![]() |
賃料10.8万円超が公平。 | ![]() |
礼金1ヵ月分の交換条件として | |
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礼金ってなんですか。 | ![]() |
賃料10万円が公平。 | ![]() |
賃料10.1万円以下が公平。 | ![]() |
賃料10.2万円以下が公平。 | ![]() |
賃料10.4万円以下が公平。 | ![]() |
賃料10.6万円以下が公平。 | ![]() |
賃料10.8万円以下が公平。 | ![]() |
賃料10.8万円超が公平。 | ![]() |
紛争防止条例(東京ルール)の特約「クリーニング・鍵交換は入居者負担」の交換条件として | |
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東京ルールってなんですか。 | ![]() |
賃料10万円が公平。 | ![]() |
賃料10.1万円以下が公平。 | ![]() |
賃料10.2万円以下が公平。 | ![]() |
賃料10.4万円以下が公平。 | ![]() |
賃料10.6万円以下が公平。 | ![]() |
賃料10.8万円以下が公平。 | ![]() |
賃料10.8万円超が公平。 | ![]() |
Q01からQ03であなたが答えた条件について質問です。あなた自身が賃貸契約をする際に「賃料xxxx円アップで礼金0にします」のようなオプションとして、あなたが答えた条件が提示されたらどうしますか? | |
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質問の意味が分かりません。 | ![]() |
更新料なしを検討したい。 | ![]() |
礼金なしを検討したい。 | ![]() |
東京ルールの特約なしを検討したい。 | ![]() |
それぞれ「……ってなんですか。」回答をノイズとして除くと、
- 全体の48%が「更新料1ヵ月→なし」と「賃料現状維持」がつりあうと考えています。
- 全体の54%が「礼金1ヵ月→なし」と「賃料現状維持」がつりあうと考えています。
- 全体の53%の人が「原状回復特約→なし」と「賃料現状維持」がつりあうと考えています。
それぞれ(0, 0.1, 0.2, 0.4, 0.6, 0.8, 1.0)で重み付けて平均を計算すると、
- 「更新料1ヵ月→なし」とつりあう賃料上昇は平均1,900円程度。うち、検討したいと答えた人の平均は1,500円程度。
- 「礼金1ヵ月→なし」とつりあう賃料上昇は平均1,600円程度。うち、検討したいと答えた人の平均は1,500円程度。
- 「原状回復特約→なし」とつりあう賃料上昇は平均1,600円程度。うち、検討したいと答えた人の平均は1,600円程度。
おまけですが、
考察
平均値としてはおおむね合理的な数値であると思われます。しかし、更新料は長期間の居住を基準に考えると少なすぎます。また、礼金の対価が予想より高かったのは居住年数の見積違いかもしれません。逆算すると、5年強での退去を想定してると言えなくもないです。
しかし、礼金にしても更新料にしても半数の人が「賃料0円」とつりあうと考えていることは衝撃的です。「賃料10万円礼金1ヵ月」と「賃料10万円礼金なし」が等価であるとか、意味が分かりません。逆に言えば「賃料を下げずに礼金を1ヵ月増やす」ことがオッケーであるはずですが、そうではないでしょう。変な参照点を作ってしまった質問文に問題があったのでしょうけれど*1、バカというか何というか、この程度の金銭感覚ならばカモられても仕方がない感じです。
結論
- 更新料なしで募集する際は賃料2%以上上昇させると同程度の物件と勝負できない可能性があります。現在の更新料の訴訟リスクを考えると、大家が更新料をやめるインセンティブはなさそうです。これからも更新料は存在し続けるでしょう。
- 礼金を減らして募集する際は賃料1.5%程度上昇させると良いでしょう。
- その際は、下手なオプションとして提示するのではなく「これはこういう物件です」として提示すべきです。選択性を与えると消費者はかえって「損した」と感じる事があります。
- 消費者の金銭感覚は結構錯覚を起こしやすいです。逆手に取るスキームはまだまだあると思います。
付記
私は「業界の裏切り者」系不動産ブロガーですので、「不動産業界にはこんなに悪い体質が!業界が良くなる為に構造を変えよう!」みたいなエントリをいくつか書いて来ましたが。
なんか、あれですね。それ以前にプレイヤーの一方がバカだとまともなゲームにならない気がしてきました。エンドユーザーが賢くなるような構造を目指すべきなのか、ってこれ民主主義社会の永遠のテーマか。