更新料訴訟・大阪高裁判決を読む(3) - 更新料はどうなるの?
というわけで3回目は、更新料の今後について考えます。
サラリーマン大家たちはこう言った
いきなり余談です。ちょっと前に不動産投資家さんたちのオフ会に参加させていただいたので、ちょうど良い機会だと思って参加されている方に「更新料どうするんですか?」と質問したんです。その答えがみなさんほとんど同じで、とても意外なものでした。
「更新料? ずっと前から取ってないですよ。ああいうウケが悪いものを取ってたらお客さん来ませんよ」
これはすごい。さすがはサラリーマン大家さんたちです。市場のニーズに対する感覚が地主系大家連中とは違います*1。ただ、でも、不動産屋がいい顔しないだろうな、と思ってさらに聞いてみると、
「広告料つけてますから」
なるほど。確かに、2年ごとに受け取る0.5ヶ月分より、すぐ受け取れる1か月分の方がいいかもしれないですよね。
既存契約はどうなる
さて、本題です。
この判決を受けて既存契約はどうなるでしょう。前述のとおり「京都の判決だから、こっちとは違うよ」とは言えません。確かに更新料が過大であることに言及していますが、そこは文脈の中でそれほど大事ではなかったです。
つまり、このまま行けば更新料返還請求が各地で起きるでしょう。どれぐらいの金額になるのでしょうか。消費者契約法に照らして無効ということですので、施行後8年分ということになります。仮に、更新料(1ヶ月分/2年)が大家・不動産屋と折半として計算してみましょう。
- 大家の例
30戸のマンション1棟、賃料平均5万円稼働率80%とすると、240万円です。
- 不動産会社の例
2000戸の管理物件、賃料平均5万円稼働率80%とすると、1億6000万円です。
結構笑えない金額ですね。もちろん、全ての人が更新料返還請求をするわけではないでしょうから、仮に1割の人が請求したとして、この1/10です。
では、どうするのかという話になりますが、とりあえず既存契約について「更新料は賃料の一部と認識しているので、返還請求をしません」という覚書をもらってしまうのが一番ですね。ただ、高裁判決は説明不足を無効の原因としていますので、覚書をもらうときも十分に説明をしてからではないと効力を期待できません。しかし、十分に説明すると、普通こんな覚書にサインしないでしょうね。当然、何らかの交換条件、たとえば今後の更新料をなくすとか賃料を下げるとか、そういったものが必要になるでしょう。それでも上手くまとまらないことの方が多いかもしれませんし、そもそも既に退去している契約については交換条件の持ちようがないですね。
そういうわけで、現実的には最高裁判決でひっくり返るようにお祈りするより方法がないと思います。
名目を変えたらどうか
これからの契約あるいは既存契約の更新については、何らかの手を打つことは可能でしょう。では、名目を変えることについて検討してみましょう。
いわゆる公庫物件というものがあり、それらは更新料を取ってはいけないことになっています*2が、結構「更新事務手数料」という名目で取っているところもあるはずです。では、その先例にならって「更新料」を「更新事務手数料」や、あるいはその他経費の名目で同額受け取ることは可能でしょうか。
判決文にはこうあります。
賃貸借契約の当事者間においては、賃料とされるのは使用収益の対価そのものであり、賃貸借契約当事者間で賃貸借契約に伴い授受される金銭の全てが必ずしも賃料の補充の性質を持つと解されるべきではない(そうでなければ、敷金はもちろん、電気量、水道料、協力金その他何らかの名目をつけさえすれば、その名目の実額を大幅に超える金銭授受や主旨不明のあいまいな名目での金銭授受までも賃料の補充の性質を持つと説明できるとされかねないからである。)
つまり、別名目での受取は消費者契約法10条後段により無効とされるおそれが高いと思われます。
特約で回避できるか
それでは、特約を付して回避することは可能でしょうか。
これは可能であると思われます。特約(もちろん、契約約款を変更してもいいとは思いますが)に、「借主は、更新時の対価としてではなく賃料の補充として更新料を支払う事を十分に認識し、その金額についても異議がない事を同意した」という文言をいれるのはアリでしょう。
しかし、前回読んだとおり、賃料の補充としての以下の点がおかしいという判断がありました。
- 更新されないときには授受されないから、後払いではない。
- 前払いだとすると、日割清算がないとおかしい。
そこで、ここでは後払い説を採用する事を提案します。特約にさらに一文入れましょう。
「なお、更新料は後払いの賃料補充であるが、期間の途中での解約についてはこれを免除する」
つまり、
- 後払いなので、更新されない場合でも本来は日割りでの支払義務がある
- しかし、途中解約の場合はこの支払を免除する
ということです。支払を免除するのですから、借主に有利なわけで、これは通る解釈ではないでしょうか*3。
ただ、ここまで来ると更新料という名前は相応しくないわけで、「更新料(後払い賃料)」という表示が良いかもしれません。うん、なんかものすごく馬鹿馬鹿しいぞ。
本命は定期借家か
以前も書きましたが、定期借家契約ですと更新ではなく再契約となるので、合法的に更新料(というか再契約料)が取れます。
例えばですが、賃料6万円の部屋があるとします、通常を2年契約とした場合はそのまま賃料は6万円、更新は当然なし、合意の上で再契約と定期借家にのっとり行うとして、敷金の補充なり再契約なので礼金などの請求が考えられます、当然拒否した場合は退去(契約終了)です、この2年で月々6万円って賃料、契約期間が4年なら5万8千円とかにしたらどうなんでしょうか、仮定なのでテキトウに4年だと5万8千円としましたが1年なら5万8千円とか、逆に短い方を安く長くなると高くなるとか。
更新料は違法 - 唸って踊れる千三つ屋
この方法がいいと思うのは、大家側としてはきちんと家賃を納めてくれる入居者さんにはずっと住んでいて欲しいので、長く住んでくれるのであれば多少割引いてもいい、と思うはずなのです。これは入居者側からしてもいいことであるはずです。ただ、問題は途中解約です。
実は、定期借家契約は、基本的に入居者側からの途中解約ができないのです。
転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。
借地借家法
ですので、通常の賃貸借契約では難しい「途中解約手数料」が可能です。これがあれば大家もある程度安心して「長期契約割引」ができると思います。
正直、こういうスタイルの契約の方が分かりやすくて良いような気がしますね。
問題は不動産屋が更新料折半の分、損してるということですかね。