不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

神奈川県宅建協会がスマートすぎる件

 
 最近、忙しくてRSSフィードを消化できず未購読を2000件ほど捨てていたのですが。
 その中に、とんでもない記事があったようです。これはマジでスマートすぎる。
 

 KTツールAIRアプリケーションを使えば、不動産業者がPCで物件情報を入力できる。チラシ広告や契約書などの帳票が物件ごとに用意され、1つの帳票に入力した情報が別の帳票に自動的に反映される仕組み。重複入力や情報の変更漏れを防ぐことができ、ドキュメント作成の効率が上がる。

「神奈川県宅地建物取引業協会」が会員企業向けに:AIR使った不動産物件システムを構築、「チラシ広告をDB化」 - ITmedia エンタープライズ

「そんなシステム、当たり前じゃないの?」という人は、この業界の非効率さを知らないんです。
 以下、このやり方がスマートな点を挙げていきましょう。
 

重複入力を防ぐ

 この業界、特に社内に物件DBがないような会社の場合、ひとつの物件を複数回入力するのは当たり前です。
 たとえば、以下のような感じ。

  • FAXで届いた物件資料を、自社の物件資料に入力・印刷する。
  • 店頭チラシを作成する。
  • スティングチラシを作る。
  • 自社サイトに掲載する。
  • HOMES等のポータルサイトに掲載する。
  • 住宅情報タウンズ等の雑誌に出稿する。
  • 契約書の必要事項を埋める。
  • 重説の必要事項を埋める。

 8回入力してますね。これは極端な例ですが、2,3回入力することって普通にあります。
 これを1回で済ませるツール宅建協会で提供しようっていうのが、まず良い取り組みです。
 

入力のインセンティブ

 作成した物件情報と帳票はXMLデータとして協会に送信され、協会が運営する「Oracle Database」に格納される。さらにこの物件情報は「REINS」など外部の不動産検索サイトに送られ、登録される仕組みになっている。不動産業者は物件情報を一度入力すればデータベースと検索サイトの両方に登録でき、「データの産地直送がしやすくなる」(横山氏)のだ。

 不動産業界にはREINSというデータベースがあり、そこに物件情報を登録して共有する仕組みになっています。しかし、今ひとつ利用されてない。
 それは何故か。
 それは入力してもお金にならないから登録しないのです。REINSに登録している暇があったら、チラシに入力したり不動産ポータルに登録したりした方が、客がつくからです。
 このシステムだと、「店頭チラシを作る」イコール「共有データベースに登録する」となり、入力する事がお金になります。物件を登録することにインセンティブがあるのです。
 実際のところ、アットホームというポータルがあって、物件を登録すると「ファクトシート」*1という物件資料を出力できるのですが、そのためだけにアットホームを使っている業者もたくさんいるぐらいです。このご時世、資料を作らないで、電話で「いい物件でました」「買います」で済むような物件はなかなかないので、結構な数のデータが集まるのではないでしょうか*2
 

共通フォーマットの可能性

 この記事には明示ありませんが、サーバから他社物件のダウンロード、家賃変更などの差分フィードなどが期待できます。他社物件をやり取りするのにFAXの必要がなく、他決物件はほぼリアルタイムに「成約済」と情報が変わり、管理会社からの大量の空室一覧を処理する必要もなくなります。これはかなり幸せ。
 

その先にあるもの

また、協会でもデータベースを活用した独自検索サイトの2009年中の開設を検討している。

 当然、物件情報は元付会社で登録されるでしょう。とすると、その情報をみたエンドユーザーは元付に行ってしまいます。他社物オンリーでやってる会社は、今までのように業者間で流通していた情報がエンドユーザーにブラインドではなくなるので、物件情報をメシの種にできなくなるわけです。
 ということは、「自社物を多く持ってる不動産屋」あるいは「仲介業務にコンサル等の付加価値を載せられる不動産屋」以外はなかなか食っていくのが大変になるのではないでしょうか。もちろん、エンドユーザーにとっては良いことでしょうけれど。

*1:業者はマイソクと呼ぶ事が多い

*2:まあ、REINSに登録してすぐ消すような業者もいるから、机上通りには動かないだろうけど