不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

大阪高裁で今度は更新料有効判決が出たので判決文を読む

 
 タイトルの通り、なんかもう最高裁判決まではスルーでいいや、という気分になってきているので気になった部分だけ。
 例によって、テキスト起こしはLhankor_Mhyによるものです。誤字脱字等は私に責があります。全文(PDF)はこちら→http://www.koushinryou.net/document/otsu-syouso.pdf
 

更新料が礼金以下ならオッケー?

 以下、控訴人=入居者、被控訴人=大家、です。

 控訴人は、本件賃貸借契約を締結したことによって、本件賃貸借契約に基づく賃借人としての地位を取得したと認められるところ、当初の賃借期間を2年とした上で、約4か月分の賃料に相当する20万円の礼金の支払義務があるものとされていることからすれば、上記の礼金の主な趣旨は、賃貸借期間を2年とする賃借権の設定を受けた賃借人としての地位を取得する対価と解するのが相当である。

「2年契約で礼金4ヶ月払ってるんだから、その20万円は2年分の賃借権の対価だよね」ということです。
 礼金が賃借権の対価、という考え方は私も同意するものです。住み始めたら追い出されない権利がもらえるわけですから、タダというわけには当然いきません。何かを得る為には何かを失わなければならない、です。
 ただ、

(略)特段の事情がない限り、更新後に永続的に継続される賃貸借期間の長さを含んだ賃借権設定の対価まで含んでいるものと直ちに解することはできない。

 これはどうなんだろう、と思いますね。基本的に建物の普通賃借権を得た以上、建物が存続する限り永続する権利であると捉えると思います。この辺はどちらかというと物権に近いのではないでしょうか。
 つまり、「あんたにテレビを売ったけど、この価格は2年分の所有権の対価だよ」という道理はないだろう*1と思うのです。
 もちろん、賃借権を物権として扱うと退去する時に大家が「買戻し」をしなければならない理屈になるわけで、その辺難しいところですが。
 
 さて、裁判所はこの論点から以下のように続けます。

 したがって、本件更新料は、(略)賃貸借期間の長さに相応して支払われるべき賃借権設定の対価の追加分ないし補充分と解するのが相当であり、本件更新料支払条項は、その支払義務及びその金額についてあらかじめ合意しておいたものと認められる

「更新料は、契約期間が長くなった時に賃借権の対価を補充するものでしょ」ということです。
 引用はしませんが、「更新料を禁止すると、退去を促進して回転速くして礼金をガンガン取った方が大家に取ってトクになるので、それはどうか」みたいなことも書いてありました。一理あるといえばありますが、借り手市場の感覚とはマッチしないですね。
 
 で、そこからこんな結論が。

(略)更新料が、賃貸借契約の締結時に支払うべき礼金の金額に比較して相当程度抑えられているなど適正な金額にとどまっている限り、直ちに賃貸人と賃借人の間に合理性のない不均衡を招来させるものではなく(略)

礼金以下の更新料なら妥当なんじゃね?」ということです。
 

更新料の落としどころ?

 どうも、この判決は「更新料は礼金より低ければオッケー?」という落とし所を作ろうとしたのではないかと感じでしまいます。「礼金ゼロ物件はどうするんだ」と考えてしまいますが、「適正な金額にとどまっている限り」としていますので、その辺で逃げるのでしょう。
 
 で、なぜこういう落としどころが必要なのか、と言いますと。
 

次に来るのは借地の更新料?

 これは、邪推ですが。
 借家の更新料が確定すると、次に来るのは借地の更新料ではないかと思います。そうなった時に「礼金(権利金)以下の更新料ならオッケー」という基準があれば対応しやすい上に、おそらく既存の契約で借地更新料返還請求は起きない金額になるのではないかと思います。
 
 
 
「更新料裁判の弁護士団が借地更新料廃止を狙ってるって、それ陰謀論だろ」と言われるとそれまでですが、「借地借家人組合」とかでググるとドキドキしてくるんですよね。この辺、たぶん、id:r2factryさんの方が詳しいと……、いや、無茶ブリでした、すみません、なんでもないです。

*1:一部通用する業界もあるようですが