オーナーから見た不動産2.0 - 不動産屋のラノベ読みの続き。
以前のエントリの通り、オーナー側から見た不動産2.0というものは必要ないものでした。
では、借り手から見た不動産2.0はどうなのでしょう。
問題はS/N比
例えば100戸のマンションがあったとしましょう。
そのマンションでは、ちょうど契約期間の2年で平均して退去していたとします。これは、現実よりも回転が良いです。
さて、築後10年を迎えたとき、そのマンションの情報はどれぐらい集まっているでしょうか。
100*10/2で、延べ500世帯の居住者がいたことになります。その内、5%の人がが情報を寄せたとしても、25件です。
10年間で25件です。
不動産というものは、それぞれが違う商品ですので、例えば工業製品のような均質なものが大量に出回るものとは、クチコミの性質が違います。たとえ隣りに建っていても、構造やプランによって住み心地は異なります。また、建物が全く同じでも、所在している地域によって価値は大きく変わります。
工業製品のようなモノは、例えばサクラが作為的に「これはすごい」的な情報を流しても、他の利用者によって「工作員乙」と修正される事があります。
しかし、不動産のクチコミは利用者からの情報は極わずかです。サクラ書き込みの中に簡単に埋もれてしまうでしょう。また、情報提供者の絶対数が少ないということは、個人のバイアスを取り除けないことになります。
つまり、集合知のメリットを全く生かせないわけです。
不動産屋は要素に分解する
しかし、不動産屋は図面だけで良さそうな物件が分かります。図面から手に入る情報はエンドユーザーと全く変わりないのに、です。
何故でしょうか。
不動産屋は今までにたくさんの物件を見てきています。その経験を再構成して判断しています。
「この間取は××だから○○だ」
「この辺りは××があるから○○だ」
「このメーカーの建物は○○だ」
「このオーナーは○○だ」
不動産2.0は不動産屋と同じ事ができるか
クチコミ情報を要素に分解してDBに収め、ある物件があった時に共通する要素をピックアップする事ができれば、不動産屋に近いシステムができるでしょう。
例えば
「便利な場所だったけど、夏暑くて、隣の音が響いて、玄関からキッチンが見えて、周りがうるさかった」
このクチコミ情報を
間取:「夏暑くて・玄関からキッチンが見えて」
メーカー:「夏暑くて・隣の音が響いて・周りがうるさかった」
環境:「周りがうるさかった・便利な場所だった」
このように分解して、それぞれのキーと関連付けてプールに放り込んでおきます。
で、ある物件が新規に登場した時に、似たようなキーの情報から物件情報を再構成するのです。
こんな感じに。
『はてなマンション』は、こんな物件です。
・10人中9人の人が「周りに買い物をするところが少ない」と感じている地域です。
・12人中7人の人が「静かな環境」と感じている地域です。
・36人中12人の人が「湿気がこもりやすい」と感じている建築会社です。
・121人中69人の人が「家事がしやすい」と感じている間取と似ています。
我ながら面白そうなアイデアだと思うのです。「はてな不動産」としてやってくれませんか>id:jkondo
ただ、たぶんあまり実際の役には立たないでしょう。
このWEBサービスは、その人が住み替えをする時期だけしか見に来ないでしょう。そうすると、やはり、これでもプールに放り込むデータが不足するような気がするのです*1。
さらに、もうひとつ根本的な問題があります。
必要な情報は何か
住み替えをしようとしている人にとって、本当に必要な情報とは何でしょう。
私の経験上、賃貸トラブルのほとんどは近隣トラブルです。
そのトラブルを回避するのには「近隣にどんな厄介な人が住んでいるか」「この物件のオーナーは地雷じゃないか」という情報が必要なのですが、その辺の情報は不動産屋と居住者しか持っていなくて、しかも流通させられない個人情報です。
結局、不動産2.0などを考えるよりも、住まいの流動性・生活のモジュール化を高めて「やばい物件に当たったら低リスクで転居できる」業界システムを作る事が、入居者を一番ハッピーにしそうです。
でも、私はしつこく不動産2.0を考えるけどね(w 売買物件はまた別物だし。
*1:ただ、広告ビジネスモデルにはなりそう