不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

めんどくせーよ!

 
 前回のエントリのコメント欄でid:ululunさんからご意見を頂き、お返事を書いたところコメント欄に書くのがもったいなくなったのでエントリにします。切文はしたくないので引用はしませんが、あらすじを書くと、

Lhankor_Mhy「更新料1ヵ月と賃料0円が等価とか、バカにも程があるだろ」
ululun「更新料の説明もロクにせずにバカとかどんだけ」
Lhankor_Mhy「更新料の説明とか関係なくね? 更新料をなくしたいなら多少高くても更新料なしの物件を選ぶべき」
ululun「それは貸し手の都合。更新料って貸し手が押しつけた慣習なんだから、最低限の説明もなしに取っているのは不当だろ」

という感じです。詳しく知りたい人は前コメント欄を読んでくださいね。
 

慣習と価格形成

 ululunさんにはちょっと釈迦に説法になりそうですが、論点の整理のために我慢して下さい。
 価格の決定というものは売り手買い手双方により決まります。売り手が「いくらで売りたい」と言っても買い手がいなければその価格では決定されないです。で、商品が複数ある場合、それは買い手の選好によって価格が決定されるわけです。りんごとみかんが同数あるなら、買い手が選好する方が売れるということです。市場の形というものは貸主側の主張によって決まってくるものではないのです。
 ある慣習がある市場での価格というものはその慣習の中で形成されたものです。そこに別の慣習が入ってくれば当然違う価格が形成されます。そして、慣習は民法のある部分をオーバーライドします。「慣習であるという根拠だけで行われ続けるのは極めて不当」とululunさんは言われるが、慣習だからこそ行われ続ける根拠になるのです。慣習をその時々によってナシにできることこそ不当です。
 たとえば、賃金相場というものは存在しそうですが、これは「ボーナス」という慣習のもとに価格形成がなされているのではないのですか? 「ただの慣習で賃金じゃないから今年からやめます。賃金据え置きで」は問題ありませんか? 慣習とは形成された合意なのではありませんか?
 繰り返しますが、「更新料がある」地域の賃料というものは「更新料がある」慣習の中で形成されたものです。そこに「更新料がない」慣習が入ってくれば当然違う価格が形成されるはずです*1
 

不動産屋がすべきこと

 ですから、大事なのは、どのような慣習の中でどのような価格が形成されているのか、その形成された価格に比べて情報格差を利用して不当な価格で契約していないか、ということだと思うのです。(この前の京都地裁判決文にもそれがうかがえる部分があります)
 ululunさんは、「賃料補充の性質と更新拒絶権放棄の対価としての性質を持ち云々」などと長々と更新料の法的意味を説明することを要求されていますが、そんなものを借りる人が求めているとは思えないですよ。だって、重説でさえまともに聞いていないのに。あんなに分かりやすい書面が義務付けられていても「東京ルールってなに?」という人がいるのに。法的意味など、そんなことは裁判でやればよろしい。
 
 不動産屋がすべきなのは、

  • どのような契約慣習があり
  • どのような相場が形成されており
  • どれだけのコストがかかり
  • どのようなリスクがあるのか

 という情報を提供することです。フェアな取引を仲介するということは、誰かが考えた「更新料がないのがフェア」を押しつけることでは決してなくて、判断を誤らないような情報を提供することだ、と思うのです。
 だから「この地域では更新料の慣習があり、2年ごとに賃料1ヵ月払う必要があって、賃料相場はこれぐらいですね。更新料無の物件もありますが相場よりxxxx円高めです。2年以上住む予定ならこっちのほうがお得ですねー」というサジェストを、お客様は一番望んでいるんじゃないですか?違いますか?
 

Lhankor_Mhyの提案

 だから、更新料の説明の義務化よりも、私が提案するのは「標準的な契約費用」「標準的なひと月当たり居住費」「標準的な退去費用」を広告に明示することです。ここでの「標準的なひと月当たり居住費」は更新料や礼金家財保険などを月割りで含めたものにしましょう。業者の皆さんの「めんどくせーよ!」という悲鳴がたちまち聞こえそうですし、ほんとに実現したら私も「ちょwwwマジかwwwめんどくせーよwwwwww」と草を生やすことでしょうけれど、その「めんどくせーよ!」が実はポイントです*2
 その「めんどくせーよ!」は今まで入居者(と大家)が負担していたものです。それを不動産屋に負担させることによって何が起こるか。そうですね、めんどくさくないような契約へ変更したくなるはずです。更新料や礼金があると「標準的なひと月当たり居住費」の計算が煩雑ですし、原状回復の特約があると「標準的な退去費用」の計算が大変になります。「標準的な……」から大きく外れる負担が発生した時には不動産屋に責任があるようにすれば、より一層シンプルな契約をしたくなるでしょう*3
 賃貸契約がめんどくさいのは、構造を変えられる立場のプレイヤーが「めんどくせーよ!」を負担していないからなのかもしれません。
*4
 

つーかさ

 不動産広告の規制で、更新料が必須表示項目じゃない事がそもそもの間違いじゃね? どう考えても家財保険より大事だろ。
 表示規約施行規則−別表9−

*1:ついでに言えば法改正でも違う価格が形成されるはず

*2:自社サイトに「標準的な契約費用」の表示を提案した事があるんだけど、「問い合わせが減るじゃん!」と撃墜された。とほほほ

*3:「この退去費用変動ありそうだなー」→「大家に負担させればほぼ定額じゃね?」

*4:でも仮に実現したらマジ大変だろうなあ