タイトルは釣りです。
はてブ経由で↓を見つけ、
ベルン大学の進化生態学の研究で、苦い思い出ほど人間の進化に役立っていることが分かった。
苦い思い出は残る - SWI swissinfo.ch
「すわ、トンデモか」と見に行ったら普通の記事でがっかりしました。
で、ブクマを見に行ったら少なくない人が「トンデモ」扱いしていたので、たぶん記者があまり内容を理解しておらず、刺激的な文章になってしまったためだと思われます。内容的には面白い話なので誤解されっぱなしは、ちょっともったいない。
そういうわけでエントリを挙げます。
と、その前に、その論文?のページを示しておきますね。
The evolution of judgement bias in indirect reciprocity
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↑という原題らしいですね。英語は苦手なのでアレですが、「間接的互恵関係における判断バイアスの進化」とかでしょうか。なんか、有料みたいなので内容は未読です*1。
囚人のジレンマ
おそらく、内容的には「繰り返し囚人のジレンマ」を使ったゲーム理論であろうかと思います。元記事にも↓とあります*2。
ランキン氏が使った実験モデルは、大部分がゲームの論理を基本としている。複雑な数学式で、戦略上の決定を下す際に使われる。例えば、Aさんは通勤に電車を使うか車を使うかの2つの選択肢がある。町の人全員が車で通勤すると渋滞が起こるのでAさんは電車を使う。逆に町の人全員が電車で通勤すると、渋滞にはならないため、Aさんは車で通勤すれば早く職場に着くことができる。
苦い思い出は残る - SWI swissinfo.ch
「囚人のジレンマって何?」という人はwikipedia辺りを読んでみて下さい。
合理的な各個人が自分にとって「最適な選択」(裏切り)をすることと、全体として「最適な選択」をすることが同時に達成できないことがジレンマと言われる所以である。
囚人のジレンマ - Wikipedia
で、たぶんこれは「繰り返し囚人のジレンマ」なので、ご存じなければその後も読んでくださいね。
次にゲームの繰り返し回数をいずれの囚人も知らない場合を考える。1980年にロバート・アクセルロッドは、繰り返し型の囚人のジレンマで利得の多くなる戦略を調べるため、様々な分野の研究者から戦略を集めて実験を行った。実験には14種類の戦略が集まり、アクセルロッドはこれらを総当りで対戦させた。その結果、全対戦の利得の合計が最も高かったのは、「しっぺ返し戦略(tit for tat)」であった。「しっぺ返し戦略」とは、最初は「協調」し、以降は、前回相手の出した手をそのまま出す戦略である。
囚人のジレンマ - Wikipedia
アクセルロッドは、続いて2回目の実験を行った。この実験には、62種類の戦略が集まった。前回の勝者が「しっぺ返し戦略」であることは伝えられていたため、集まった戦略はこれよりも高い利得を得ようと工夫されたものだった。それにもかかわらず、最大の利得を得たのは、またしても「しっぺ返し戦略」であった。
判断バイアスは互恵的に進化しない
さて、元記事に次のような文がありました。
例えば誰かを助けようと自分で決めたとして、誰もその人の行動を知らず、その人にとって見返りもないというのであれば、助けないのが最良であるという論理が成り立つという。
苦い思い出は残る - SWI swissinfo.ch
「一方で、誰かに見られていて自分の名声にかかわるとか、ほかの人全員がすることに自分の行動が左右されるとなれば、協力したほうがよいという判断が働く」
つまり、ゲームの個体は他の個体の行動を「観測」する事ができ、それによって「この人は以前別の誰かを裏切っていたから、今回も裏切るかも」という「判断」をするモデルなのでしょう。
で、そうした時に、以下のようなグループを作ったそうです。
良い経験をすぐ思い出すようにプログラムされたグループと、悪い経験をすぐ思い出すようにプログラムされた2つのグループを作った
苦い思い出は残る - SWI swissinfo.ch
つまり、「裏切られたことを忘れない」グループと、「協調した事を忘れない」グループです。もっと分かりやすく言うと「これはひどい」をつけるグループと「これはすごい」をつけるグループです。
で、結果はというと、
その結果は「評判の悪い生体、つまりほかから助けを受けない生体は強く、評判が良い生体は淘汰される。最良の策は思いやりを持たないこと」
苦い思い出は残る - SWI swissinfo.ch
「これはひどい」グループがこの先生きのこるそうです。よかったですね、お前ら。
ということは、人間は「これはひどい」と言い続け、「これはすごい」と言って来た人たちを駆逐した、その子孫ということです。実に説得力ありますね、お前ら。