タケルンバ卿のエントリを読んで、思い出した話があったので書きます。
もちろんマニュアルは最低限の決まりごとで、最低ラインを定めるための知恵。これより上に行くならマニュアル破りもいいことになりうるわけですが、単なる手抜きのマニュアル破りは、最低ラインを下げるだけ。食べ物であれば味の低下。手抜きをすればするほどまずくなる。
「仕方ない」ではじまるマニュアル破り - (旧姓)タケルンバ卿日記
バーガーキングの失敗
バーガーキングの初上陸失敗はマニュアルが原因のひとつにあった、と聞いています。
バーガーキング社はさらにこのコンベアーブロイラーを使用し画期的な厨房レイアウトを完成させた。マクドナルドのキッチンレイアウトはフォードの自動車生産工程にヒントを得てその流れ作業方式を取り入れたと言われている。しかし、コーヒーショップからヒントを得た厨房レイアウトではメニューアイテムが増加してくると、流れ作業にならず、商品が複雑に異動するようになってしまった。
チェーン本部をサポートする「飲食業の技術革新」
バーガーキングの成功要因は、味とその味を実現させる厨房レイアウトにある、と言われてました。
ところで、バーガーキングがJTと提携して展開していた時、森永ラブの店舗を改装することによって店舗展開を図りました。ところが、私も何店舗か見に行った事があるのですが*1、森永ラブというのは非常に素朴な小規模店舗レイアウトなんですね。バーガーキングやマクドナルドというよりも、モスバーガーと同じような、厨房に2人程度が最適な人員配置になるレイアウトでした。そのような店舗にバーガーキングのような大規模店かつ豊富なメニューの複雑なマニュアルを持ち込んだ為、オペレーションを維持できなかったらしいのです。
なんか、ネットで証言ないかなーとか検索してたら、なんとカイ士伝さんところが。
バーガーキングといえば直火焼きの肉が特徴ですが、そのために専用の直火焼マシンが用意されており、マニュアル通りなら肉をひたすら焼く係が1人。そしてパンを焼きながらオーダーの指示を出す人、ハンバーガーを作る人、フライ関係の担当と、少なくとも裏に4人は必要になる。
カイ氏伝: 俺とバーガーキング
ちなみに森永ラブはキッチンも狭いけれど代わりに手の届く範囲に一通り道具があったので、1人キッチン1人接客でも十分回せました。もちろんあまりに混んでくると破綻しますが、夕方を過ぎた時間帯であれば混んだときだけ店長がサポートし、それ以外は1人で十分まかなえていたので、「なんなんだこのシステムは……」とバーガーキングになってから思うことしきり。
カイ氏伝: 俺とバーガーキング
前述の通り改装資金がたまらないくらいだから売上もいまいちで、人件費は削減の一方。そうすると1人あたりの負担がどんどん大きくなり、辞めていったりもしくは作業の手抜きが増えたりと品質が落ちる。品質落ちるからまた売上が……、と、端から見ていてわかりやすいほどのスパイラルが起きてました、当時は。
カイ氏伝: 俺とバーガーキング
マニュアルと店舗レイアウト
バーガーキングの生命線はその品質を維持するマニュアルだったわけでそこを捨てるわけにはいかなかったのですが、しかしそのマニュアルを実行するだけのリソースがない場所に使っても、オペレーションに負荷がかかりやはりうまく行かなかった、というわけです。
もちろん、このバーガーキングの失敗はマニュアルの失敗という面もありますが、リサーチの失敗、つまりバーガーキングのマニュアルを投下しても機能するか、という面での判断ミスもあるわけなんですが。しかし、この「マニュアルが機能するだけの店舗レイアウト」というのは見落としがちな話だと感じています。
厨房のマニュアルで1工程を加えた時、どの店舗も同じレイアウトであれば本部での計算通りにうまく行くでしょう。しかし、大規模店・小規模店が混在しているチェーンでは、レイアウトも様々である事がほとんどです。大規模店ではうまく行くマニュアルが小規模店では動線の混乱を呼ぶこともあるでしょう、というか全ての店舗レイアウトでうまく行くということはあり得ないです。その店舗のデザインは、その設計時期のマニュアルと想定売上に最適化されているはずなので、マニュアルが変化すればするほどその負荷は増大していくでしょう。
QCと冗長性とデザイン
ですので、大事になっていくのがQC活動ということになるわけです。QCは言わばハウスルールな訳で、マニュアルが厳格であればあるほど「店が回らない」か「マニュアル破り」の二択になりやすくなるはずです。それを考えるとどこかに冗長性があることが望ましいのですが、マニュアルに冗長性があると商品が均質にならない恐れがあり、店舗レイアウトに冗長性があると収益性が落ちるかもしれないわけで。
こういう、冗長性についてのデザイン論みたいなものがあってもいいと思うので、きっと店舗設計のプロたちでは当たり前に議論されているネタなんだろうなあと思い、ちょっと興味を持ちました。誰か書いて。
あー、なんかワッパー食いたくなってきた。