不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

自殺とか幽霊とかによくある誤解

 
 タイトル、ちょっと煽り気味ですが。
 私は、たぶん業者が負けるだろうな、と考えています。
 

 建物の賃貸借契約の際「幽霊が出る」とのうわさについて説明しなかったとして、日光市内の男性が8日までに、建物の所有者などに502万円の損害賠償を求める訴えを宇都宮地裁に起こした。男性側は「うわさを(男性が)知れば契約しないと認識しながら、これを秘して契約を締結した」と主張。業者側は「事前に説明した」と反論している。
 訴状によると、男性は二〇〇六年二月、元料理店だった建物を賃借契約。同年四月から飲食店の営業を開始した。その後客や知人から「幽霊が出る」とのうわさがあることを知らされた。さらに男性自身も白い影を目撃したり、無人なのに足音や物音がしたり、人感センサーの照明が突然点灯することもあったという。
 男性は重要事項説明書を交付され諸費用の説明を受けた際、幽霊に関する説明を受けていないと主張。契約時に支払った敷金や礼金などの契約時諸費用などの返還や慰謝料などを求めている。
 この建物を巡っては、前の賃借人が幽霊のうわさに悩まされて退去した経緯があるとされる。業者らは男性側に「霊的な現象が建物内にあると、前の借り主から相談があり、おはらいをした」などと説明しているという。

http://www.shimotsuke.co.jp/hensyu/news/php/s_news.php?f=k&d=20080509&n=0

 
ブコメなどを読むと誤解をしている人もいるようなので、以下で解説します。
http://b.hatena.ne.jp/entry/http%3A//www.shimotsuke.co.jp/hensyu/news/php/s_news.php%3Ff%3Dk%26d%3D20080509%26n%3D0
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1126110.html
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1126110.html 
 ただし、判断が難しい部分も含まれています。私が間違っていることも大いにあり得ますので、ぜひご指摘いただければと思います。
 

その物件に幽霊がいるかどうか、法廷で争われる?

 いいえ。
 幽霊の存在が法廷で争われることは(たぶん)まず有り得ません。
 

幽霊の存在が法的に立証できないから、この訴えは成り立たない?

 いいえ。
 この場合、「幽霊が本当にいるかどうか」はどうでも良くて、不動産屋が借主に「幽霊が出ることを説明したかどうか」が争点となります。
 

幽霊が出るかどうかは、不動産屋に説明義務がある?

 いいえ。
 不動産業者は仲介の際に「重要事項説明」をすることが義務付けられていますが、その中の必要項目に「幽霊の存在」はありません。
 しかし、宅建業法に以下のような条文があります。

(業務に関する禁止事項)
第47条 宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
1.宅地若しくは建物の売買、交換若しくは賃借の契約の締結について勧誘をするに際し、(略)次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
(略)
ニ (略)判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの

宅地建物取引業法,(略)宅建業法

 借主が「○○について調べて下さい」依頼したものは、この「判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」と認められる傾向にあります。
 つまり、「幽霊が出たりしませんよね?」という質問は「私は幽霊が出る物件は借りませんよ」という意思表示とみなせるからです。
 ですから、この場合、「うわさを(男性が)知れば契約しないと認識」していたことについては争いはないのですから、不動産屋には説明義務があると考えていいでしょう。
 

つまり、「言った言わない」の水掛け論?

 たぶん、いいえです。
 「重要事項説明」の際には「重要事項説明書」の交付が義務付けられています。必要事項の不記載があった場合、たとえ口頭で説明をしていても義務違反となります。
 幽霊についての説明については記載の義務がないのは確かなのですが、必要事項に準じた扱いとされる可能性が高いでしょう。まして、「前の賃借人が幽霊のうわさに悩まされて退去した経緯がある」のですから、「重要事項説明書」に記載しないというのは、スキがあったとしか言えないですね。
 業者が説明をしている音声の記録などがあれば別だとは思いますが。

結局、どうなの?

 たぶんこのケースは、

借主「幽霊出ませんよね?」
業者「前の借主から相談受けた事があって、おはらいをしましたよ(だから、また出るかもしれませんね)
借主「あー、おはらいしたんですか(じゃあ、大丈夫ですね)

 というような、流れだったのではないかと思っています。
 
 ちょっと、不動産屋が可哀想ですが、ちょっと言葉を置換するとこんなやり取りになります。

借主「シロアリ出ませんよね?」
業者「前の借主から相談受けた事があって、駆除をしましたよ(だから、また出るかもしれませんね)」
借主「あー、駆除したんですか(じゃあ、大丈夫ですね)」

 こうして見ると、やっぱり書面にしなかった業者の手落ち、と言わざるを得ないでしょう。
 8割方、業者が譲らなきゃいけないことになるのではないかと。
 
 
 
 
 以下、余談。
 
 あと、今回のこととは直接関係ないことなのですが、ブコメで見られた誤解で以下のようなものがありました。
 

自殺については、事故後一代目の居住者のみに説明すれば良い?

 いいえ。
 その考えは、多くの管理業者が定めているガイドラインにすぎません。法的な根拠はありません。ただ、自殺があったとはいえ次の居住者が十分な期間平穏に居住したのであれば、その次の居住者に対しては特に説明義務はない、という判例はあります。
 つまり、「事故後一代目の居住者のみに説明」というのは、「それなら訴えられても勝てる」という管理会社の判断なのです。
 ですから、以下のようなケースは説明を省くと訴えられるかもしれません。

  • 社会に大きな影響を与えた自殺
  • 事故後一代目の居住者が、幽霊を見て逃げ出した
  • 事故後一代目の居住者が、不動産屋の社員・身内だった