不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

「セルフリフォームOK」な賃貸物件についてどうやら国交省がやる気らしい件

 
こんな記事が注目されていました。

多くの時間を過ごす、「住まい」がなぜ、こんなにも消極的な選ばれ方をしているのか。特に若い世代は、こんなあきらめ空間に押し込められているのだと思います。私が出会った、改装可能賃貸は、全く違う価値をもたらしてくれました。全てが「足し算」、広いワンルームも、高い天井も、自分で手を加えることで、あきらめずに済みました。

さあ、改装可能賃貸に住もう | 未来住まい方会議 by YADOKARI | ミニマルライフ/多拠点居住/スモールハウス/モバイルハウスから「これからの豊かさ」を考え実践する為のメディア。

この世の中にはDIY病とでもいいますか、自分でいろいろやりたがる方々が存在しています。なにしろ、賃貸のデメリットに「自分で好きなようにいじれない」点を挙げる人が結構いるぐらいですから。
そういった方向けに「改装OK」物件が徐々に増えてきています。
 
で。
このタイプの賃貸物件流通について、国土交通省が本格的に取り組んでいるようです。
住宅:「個人住宅の賃貸流通の促進に関する検討会」の最終報告について - 国土交通省
↑の「賃貸借ガイドライン(案)の概要」というPDFを見ると「借主負担DIY」という賃貸借契約のガイドラインがあるのが分かります。
これは楽しみですねえ。
 
そういうわけで。
「借主負担DIY型賃貸契約」がどのようなものであるか、現状の概要で分かる範囲を解説をしたいと思います。そして、数年後のDIY賃貸物件を想像して一緒にwktkしようじゃありませんか。*1
 
と、その前に。
例によって忙しい人のために要点をリストにしておきますので、それだけは読んで帰ってくださいね。
 

  • 普通の部屋より賃料が安いよ。
  • 修繕前の物件が引き渡されるので気をつけよう (現状引渡
  • 大家さんに「壊れたので直してください」ができない (貸主の修繕義務免責
  • 逆に大家さんに「壊れたところ直してよ」と言われるかも (借主の修繕義務
  • 出ていく時にキレイにする必要なし (原状回復義務一部免責
  • 「俺が作った棚もったいないから大家さん買い取ってよ」はダメ (造作買取請求権の放棄
  • 当然、大家さんにもメリットがあるよ

 

2タイプあるみたい

PDFの表を見るとDIY型賃貸には2タイプあるのが分かります。(現状有姿)と(要修繕)です。
現状有姿タイプは「設備や内装が相当老朽化しており、通常の賃貸事業では更新が必要と判断されるが、そのままの状態で通常の生活を営むことは可能な物件」とあり、要修繕タイプは「設備の故障や建付不具合等の要修繕箇所があり、そのままの状態では通常の生活を営むことが難しい物件」とあります。
つまり、
 

  1. 普通に住めるけど、賃貸で出すレベルじゃない部屋
  2. 住むのにも厳しい部屋

 
の2通りがあるということですね。
 

現状引渡

DIY型賃貸は、現状のまま引き渡されるようです。
これは当然ですよね。入居者さんがDIYするんですから、クロス貼り替えたりする必要がない。
ただ、気になるのがそのDIYをしている間の家賃です。現状有姿タイプなら住みながらDIYしていけばいいでしょうけれど、要修繕タイプはたとえばトイレが使えないとか、そういう居住に無理がある状態ですから、その間は引っ越し元の部屋に住んでいるかもしれません。そうすると2重家賃になることもありそうなので、上手くフリーレントとかを使いたいところですね。
 

修繕は借主負担

DIY型賃貸は、大家さんに修繕義務がないようです。
通常の賃貸ですと、

賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。

民法第606条 - Wikibooks

と、民法にある通り大家さんに修繕義務があるのですが、これを免責する契約になるようです。ただし、水漏れなどの躯体に係わる部分は大家さんの負担のようです。
修繕義務については、入居者さんに負わせるか、それとも両者とも修繕義務を負わずに入居者さんが自己判断で修繕をするか、の取り決めをしておくことが推奨されているようです。入居者さんが修繕義務を負う場合は分担割合などを合意が必要、とあります。
ここは契約の中で慎重に決めておく必要がありますね。また、入居者さんが修繕義務を負うにせよそうでないにせよ、「入居したら次々と設備壊れて大赤字」ということも考えられます。信頼のおけるプロにチェックを依頼するなどすればいいかもしれませんが、それでもすべて想定できるわけでもありませんし、ある程度の覚悟をしておく必要があると思います。
 

DIY

入居者さんのリフォームは原則認める方向です。当たり前ですね。
そして、費用は入居者さん負担です。これも当たり前ですね。
 

DIYした部分は退去時に元に戻す必要なし

DIY型賃貸は、その箇所に限り退去時に元に戻す必要がないです。
通常の賃貸ですと、

借主は、借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる

民法第598条 - Wikibooks

と、民法にある通り、入居者さんに原状回復義務があります。これを一部免責する契約になります。
まあ、当たり前ですよね。せっかく貼ったデザインクロスを剥がしてもともと貼ってあった(賃貸に出すレベルじゃない)クロスを貼り直すとか、誰の得にもなりません。
 

造作買取請求権は認めない

DIY型賃貸は、造作買取請求権を認めないようです。
いちおう、借地借家法的には、

 建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる

借地借家法第33条 - Wikibooks

とあるとおり、たとえば「俺が作りつけた棚を買い取ってください」という請求を大家さんにすることができます。ただ、まあ、普通の賃貸では棚をつけるとかはできないですし、そもそも契約約款で放棄させられていることが多いでしょう。
そういうわけでDIY型賃貸でも、棚をつけたとか、システムキッチンを入れ替えた、とかした場合、それを退去時に撤去する必要があります。もちろん、大家さんとの合意ができれば買い取ってもらうこともできるはできます。
*2
 

大家さんにもメリットが

DIY型賃貸は、大家さんにもメリットがあります。
というか、入居者さんより大家さんの方に、より多くのメリットがあると思います。
ガイドライン案を見る限り「そのままだと賃貸市場に出せないが、大家に修繕をする余裕もない」という物件を市場に出すために、大家さんになるべく負担をかけないような形式になっているようです。このような大家さんにはそもそもお金にならない物件がお金になるのですから、いいことでしょう。
また、入居者さんとしてもお金をかけてDIYをした部屋から2年で退去する、なんてことはないでしょう。長期入居者として末長く家賃を支払ってくれるでしょうから、これもメリットです。
 
 
 

不動産屋の感想としては

いやこれ、契約するの面倒でしょ(w
 
DIYの範囲だ、修繕の負担だ、退去時の造作撤去だ、といろいろ決めごとがあるので、その辺をあらかじめ考慮しながらDIYプランを作らなきゃいけません。入居前に物件状態のチェックは欠かせないですから、できればリフォームとかに詳しいプロの仲介が望ましいような気がします。
一方で、賃料は相場より低いので「仲介手数料1ヶ月」だと安くなってしまいます。
つまり、不動産屋としては、契約の準備が大変だけど、実入りが少ない、というお仕事になるように思えます。
ですから、「リフォーム工事も請け負ってそちらで利益を出す」というやり方ならいいのですが、「DIYするのでそちらは結構です」というお客さん相手だと、不動産屋は仲介をやりたがらず、結局市場で流通しないということにもなりかねないかなあ、と思いました。
 
もちろん、「じゃあ不動産屋抜きで」ということも可能です。しかし一方で、そもそもDIY型賃貸は今まで見てきたとおり現行法の下でまったく問題なく契約できるものです。それなのにわざわざガイドラインを作る理由は、枠組みを作っておくことで安心して契約ができるようにし利用者を増やそうというものです。そのような目的なのに「じゃあ不動産屋抜きで」とやってしまうと、不動産屋抜きでも不安なく契約できるような人たちだけしか利用しなくなってしまうため、本末転倒でしょう。
 
 
 
だからまあ。
DIY型の時は仲介手数料の上限を増やしてほしいなあ、などと思いました(w
 
 
 

*1:あくまでガイドライン案ですから、実際にどうなるかはまだまだ分かりません

*2:ところで、このガイドライン案の中で造作買取の例としてエアコンが挙がっているんですが、家庭用エアコンは造作ではないという判例があるので(http://www.retio.or.jp/case_search/pdf/retio/83-152.pdf)例として不適当なような?