不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

猫カフェさん移転の件についてと、そろそろ引っ越しシーズンだからついでに重要事項説明書のどこを見れば分かるかについて

 
年末に「テナントから追い出されるので移転します」というちょっと興味深いブログ記事が挙がってました。
その後、記事の内容が削除されたため、リンクを貼ったり詳しい内容を説明するのはやめますが、猫カフェさんによると経緯はこんな感じだったらしいです。
 

  1. 猫カフェ開設後、テナントビルが競売にかかる
  2. 落札した会社(仮にHとします)が、「敷金X百万円差し入れるなら再契約してもよい」との申し出。
  3. 猫カフェにはその余裕がなかったので、交渉を継続。
  4. 交渉の過程で、Hより猫カフェに「引渡命令を申し立てるが、形式上のことなので気にしないでよい」と説明。
  5. 平成23年秋ごろ引渡命令が届いたが、猫カフェはなにもしなかった。
  6. それ以後、猫カフェは敷金を支払わなかったが賃料等は滞納しなかった。
  7. 平成25年11月末、Hより「敷金を支払わないなら退去せよ」との申し出。
  8. 猫カフェが「支払えない」旨の回答をすると、強制執行が申し立てられた。

 
ということです。
 
で。
これからこの件に絡んで賃貸契約の時に気をつけることを説明します*1が、ちょっとややこしいので、面倒な人は以下のリストを読んで帰ってください。

  • Hは自分の権利を上手に行使した
  • 猫カフェは権利を行使しなかった
  • 裁判所の命令をスルーするのはやめましょういやマジで
  • 早めに専門家に相談しましょう
  • 契約時に重要事項説明書を見てみましょう
    • 「対象となる宅地又は建物に直接関係する事項」>「登記記録に記録された事項」>「乙区」に抵当権があるかを確認しましょう
      • あるなら同じことが起こりえますが、よくあることです

 
 

抵当権設定後の賃貸借は抵当権に対抗できない

もし、抵当権があるテナントやアパートマンションに賃貸で入った場合、競売で落札された時には6ヶ月以内に出ていかなければなりません。
ですから、猫カフェさんは平成23年秋時点で求められれば退去しなくてはいけない状態であったことになります。
 

引渡命令は落札後半年以内に申し立てないといけない

テナント物件を落札したHは、普通に考えると猫カフェさんを追い出す必要はないです。追い出したら家賃が入ってこなくなっちゃいますからね。敷金がない状態でテナントを入れておくのは不安だったので敷金を入れさせようとしたのでしょうけれど、円満に賃貸が継続できるなら双方にとって良いことであるはずです。
ただし、競売の落札後半年以内に申し立てないといけないです。1年後に「やっぱりコイツを追い出したい」と思ってもどうしようもないです。ですから「形式上」申し立てたということでしょう。
 

引渡命令には不服申し立てができる

「引渡命令は気にしなくていいですよ」という言葉どおりに気にしなかったのは、素直すぎたと思います。
引渡命令には異議申し立てができます。逆に言うと、異議申し立てがなければ退去することに異議はなかった、ということになります。その時点では賃貸借契約巻き直しの折衝をしている状態だったのですから、専門家に相談して対処すべきでした。分割でもいいから敷金を支払う約束をして賃貸借契約を成立させておけば全然違った結果となったでしょう。
 

いつでも追い出せる状態だった

抗告がなかった時点で、Hは猫カフェさんをいつでも追い出せる状態でした。ブコメツイッターなどではHのことを罵倒している人もいましたが、これは法的に正当な権利です。
そして、追い出さずに賃貸借契約を結ぶこともできました。敷金が支払われればそうするつもりだったと思います。追い出すと家賃が入らなくなっちゃいますからね。
言うなれば、2年間オプションを持ったままでいた、ということになります。たぶん、一応時効までは保持できたんではないかと思うんですが、そのオプションを手放す気になったのは何故なんでしょうね、家賃が入らなくなっちゃうのに。誰か他の人からもらえるめどがついたんでしょうか。
 
また、猫カフェさんの方もちょっとよくわからないんですよね。敷金を支払う余裕がないのに移転先のテナントの契約金を支払う余裕はあったんでしょうか。こちらも敷金があるはずですが。
 

契約時の重要事項説明書に書いてある

この抵当権については、賃貸契約の重要事項説明書に書いてあります。「対象となる宅地又は建物に直接関係する事項」>「登記記録に記録された事項」>「乙区」を読んでみましょう。この3月で引っ越しを考えている人は、契約時に確認してみましょう。不動産屋に聞いてみればきっと私と同じことを説明してくれると思います。
アパートマンションは数千万円から数十億円するものですから、当然銀行から借り入れをしています。抵当権がついているのはよくあることです。これを避けているとまともに物件を探すことができませんから、どういうことが起きえるか理解しつつも、気に入った物件ならば目をつぶって契約しちゃいましょう
 
 
 

蛇足ですが

記事を削除したのは妥当な判断だったと思います。仕方がないとはいえ感情的な書き方で信憑性の低そうな風説を書いていましたから、下手をすると業務妨害で訴えられたかもしれません。削除前の記事について魚拓が取られていたようですが、なぜか長い冬休みに入ってしまったらしく12月22日以降の魚拓は閲覧できないようです。早く年を越してほしいですね。
いずれにせよ、テナントビルを競売で落とすような会社はそちら方面のプロなわけですから、素人さんが生兵法で対抗するのはやめた方がいいと思いました。

*1:例によって間違っていたらご指摘ください