不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

不動産市場は衰退しました

 
あなたは中古車を買いに来ました。二つの車があります。
Aは丁寧に使っていたためほぼ新品同様の中古車で、200万円の価値があります。
Bはボロボロであと1万キロ走るか走らないかという中古車で、50万円の価値しかありません。
ただし、AとBともプロの仕事によってピカピカに磨きあげられており、素人のあなたにはどちらがAでどちらがBなのか全く区別がつきません。お店の人もどちらがどちらか全く教えてくれません。
 
さて、ここで質問です。

  • あなたはこの車、200万円で買いますか? 50万円で買いますか? それとも他の値段で買いますか?

次に、立場を変えて質問です。

  • あなたはAの売主です。前問で買おうと思った金額で、あなたはAを売りますか?

もうひとつ、質問です。

  • 取引は成立しそうですか? もし成立しないなら、いったい誰が悪いと思いますか?

 
 
 
え? 何の話をしてるのかって? もちろん、不動産の話ですよ。
長嶋さんが刺激的なタイトルの記事を日経に書いていたのでそのお話です。
 

やはり俺の不動産査定はまちがってる

長嶋さんは日本の住宅購入の現状についてこう書きます。

住宅ローンの支払いは30年や35年もの長きにわたり、ローン元金と金利をせっせと返済し続けなければならないが、このとき、建物の価値も同時に減価する。つまり「住宅ローン元金と建物価値が目減り競争している」というのが中古住宅市場の真相だ

マイホーム 買った瞬間、価値ゼロへまっしぐら :マイホーム選び ここがツボ:貯蓄・ローン :マネー :日本経済新聞

いずれにせよ、「住宅ローンを返済し終わった頃にはすでに建物の価値はなく、土地の価値だけが残る。建物には価値はないが、まだ何とか住める」といった事態を許容するのが、日本のマイホーム購入である。

マイホーム 買った瞬間、価値ゼロへまっしぐら :マイホーム選び ここがツボ:貯蓄・ローン :マネー :日本経済新聞

これは現実として、一部エリアのマンションなどを除けばこのとおりになる可能性が高いでしょう。こんな不動産市場に誰がした。
 
長嶋さんはこう書きます。

「日本の家は木と紙でできているから」「日本は地震国だから」など、もっともらしい理由がある。ならばそれに合わせて価格形成されればよいはず。本当は「中古住宅市場の整備を怠ってきたから」という、身も蓋もない理由なのだ。

マイホーム 買った瞬間、価値ゼロへまっしぐら :マイホーム選び ここがツボ:貯蓄・ローン :マネー :日本経済新聞

住宅ローンを融資するにあたり、現地を確認することはない。住宅地図や販売図面など机上の、しかも貧弱なデータだけで機械的に判断するのみ。そしてその機械的な判断は20〜25年でゼロということにしましょうと、これもなんとなく決まっている。

マイホーム 買った瞬間、価値ゼロへまっしぐら :マイホーム選び ここがツボ:貯蓄・ローン :マネー :日本経済新聞

日本の建築技術とか気候風土の話ではなくて、不動産業界が悪い、ということなんです。え?俺たちのせい?
 
 
 

俺の家がこんなに短命なわけがない

ところで。
ブコメでこんなことを書いている方がいます。

この方は自分でデータをきちんと操作集計統計していない。しかもお役所から与えられた統計も古い。住宅の寿命はずっと延びている。 http://d.hatena.ne.jp/hihi01/20081121/1227438331

はてなブックマーク - HPO:Bookmark - 2013年10月19日

これは長嶋さんもご存知のことです。なにせ日本ホームインスペクターズ協会の理事長さんで、ハ会の中心人物なんですから。
そして、これはたぶん正しいです。私もそんな記事を書きました。

そういうわけで、おそらく日本の住宅の寿命は50年を超えアメリカ並みになってきているのだろうと思われます。

日本の住宅はもう寿命が短くないかもしれないことと、その価格への影響について - 不動産屋のラノベ読み

ですから、ご心配なく。今まではともかく、これからは建物の価格も下落しなくなりますし、ローンを終えても価値が残るなんてことも普通に起こるはずですよ!
 
 
 
えーと。
 
 
本当に?
 
 
 
長嶋さんの言葉をもう一度引用します。

住宅ローンを融資するにあたり、現地を確認することはない。住宅地図や販売図面など机上の、しかも貧弱なデータだけで機械的に判断するのみ。そしてその機械的な判断は20〜25年でゼロということにしましょうと、これもなんとなく決まっている。

マイホーム 買った瞬間、価値ゼロへまっしぐら :マイホーム選び ここがツボ:貯蓄・ローン :マネー :日本経済新聞

そして、もう一度、冒頭の質問のつづきをしましょう。

  • 最近の中古車は質が良く平均すると寿命が倍近くに延びているそうです。ところで、あなたはこの車、200万円で買いますか? 50万円で買いますか? それとも他の値段で買いますか?

 
 
 
参考:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%A2%E3%83%B3%E5%B8%82%E5%A0%B4
 
 
 

おまけ


 
 ま た 日 経 か
 
 
 

「イミフ」というブコメがあったので追記

いや、別に「気候風土のせいで築後25年経ったら安全のために価値なし」とか「中古嫌いの日本人の気質」とかなら、選好の話だからいいんだ。
ただ、短命建物と長寿命建物が、同じ顔して同じ価格で市場に並んでることに納得がいくのかって話。いいんですよ別に、みんな、自分が買った建物が短命建物だったとしても「日本の気候風土のせいで劣化する建物があるのは仕方がないよね。質のばらつきについてのリスクは織り込み済みだから」と納得できるなら、それはそれで。
 
やっかいなのはこの先で、じゃあ「どういう基準で質のいい建物を評価していくのか」という問題は容易に解決しない。なぜなら、医者があなたの寿命を「あと25年です」なんてことは言えないように、建築士も建物の余命を「あと15年使えます」などとは言えないから。
この問題について実にユニークな方法を提案してる人がはてなにいるので、読んでみるといいと思うよ。
ぼくたちが知りたいのは、築○年じゃないんだ - concretism