不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

霞ヶ関は本当に姥捨て山を作っているのか

 
 大西さんが、山口県の「ライフケア高砂」の土石流事故を踏まえて官僚批判をしています。その批判への批判です。
 

言葉は悪いのですが人がこないまるで「姥捨て山」に御殿が聳えているのです。
老人ホームの箱物としての基準は雁字搦めにしておき、それでは建築費がかさんで建たないのために、災害危険区域、地滑り防止区域、土砂災害特別警戒区域などに建ててもいいという規制緩和を行って抜け道をつくったのです。本来、規制緩和するとすれば、箱物の基準のほうであったはずです。

大西 宏のマーケティング・エッセンス : 老人ホームは危ない場所に建てられているという現実

こんなところでも、霞が関のお役人さんや日本の政治は、日本を守るどころか日本をめちゃくちゃにしてきていることがわかります。

大西 宏のマーケティング・エッセンス : 老人ホームは危ない場所に建てられているという現実

 
 書いてる事がどうにも曖昧模糊としていたので、コメント欄に

 記事中に「災害危険区域、地滑り防止区域、土砂災害特別警戒区域などに建ててもいいという規制緩和」とありましたが、具体的にはどの法律のいつの改正ですか?

大西 宏のマーケティング・エッセンス : 老人ホームは危ない場所に建てられているという現実

 と書いたのですが、気づいていただけなかったので批判エントリを上げることにしました。
 老人福祉の問題に関しては全く無知な私ですが、不動産のことについては一応プロということになっていますので*1、その辺からの批判です。もちろん、老人福祉法関連がオーバーレイして規制緩和している可能性が十分にあるので、間違っていたら再批判をお願い致します。
 

災害危険区域に老人ホームが建つのは地方公共団体の責任

 大西さんは「霞ヶ関が災害危険区域に老人ホームを建てる抜け道を作った」と批判しています。
 しかし、建築基準法39条によると、

(災害危険区域)
第三十九条  地方公共団体は、条例で、津波、高潮、出水等による危険の著しい区域を災害危険区域として指定することができる。
2  災害危険区域内における住居の用に供する建築物の建築の禁止その他建築物の建築に関する制限で災害防止上必要なものは、前項の条例で定める。

建築基準法

 とあります。災害危険区域を指定したり建築制限をするのは、地方公共団体の仕事であり、霞ヶ関の仕事ではありません
 

土砂災害特別警戒区域に老人ホームが建つのは知事の責任

 大西さんは「霞ヶ関が土砂災害特別警戒区域に老人ホームを建てる抜け道を作った」と批判しています。
 しかし、土砂災害防止法8条および9条によると、

(土砂災害特別警戒区域
第八条  都道府県知事は、(略)土砂災害特別警戒区域(以下「特別警戒区域」という。)として指定することができる。
第九条  特別警戒区域内において、(略)区域内において建築が予定されている建築物(略)の用途が制限用途であるもの(以下「特定開発行為」という。)をしようとする者は、あらかじめ、都道府県知事の許可を受けなければならない。(後略)
2  前項の制限用途とは、(略)高齢者、障害者、乳幼児その他の特に防災上の配慮を要する者が利用する社会福祉施設(後略)

土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律

 とあります。土砂災害特別警戒区域を指定したり、その区域に社会福祉施設の建築許可を出すのは、知事の仕事であり、霞ヶ関の仕事ではありません
 

地すべり防止区域を批判するのは筋違い

 大西さんは「霞ヶ関が地すべり防止区域に老人ホームを建てる抜け道を作った」と批判しています。
 しかし、地すべり等防止法の目的によると、

(目的)
第一条  この法律は、地すべり及びぼた山の崩壊による被害を除却し、又は軽減するため、地すべり及びぼた山の崩壊を防止し、もつて国土の保全と民生の安定に資することを目的とする。

地すべり等防止法

 とあります。
 一方で、土砂災害防止法の目的は

(目的)
第一条  この法律は、土砂災害から国民の生命及び身体を保護するため、土砂災害が発生するおそれがある土地の区域を明らかにし、当該区域における警戒避難体制の整備を図るとともに、著しい土砂災害が発生するおそれがある土地の区域において一定の開発行為を制限するほか、建築物の構造の規制に関する所要の措置を定めること等により、土砂災害の防止のための対策の推進を図り、もって公共の福祉の確保に資することを目的とする。

土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律

 とあります。
 立法の目的が違うのがご理解いただけますでしょうか。地すべり等防止法は地すべりを防ぐ為の工事を国や地方公共団体がするための法律なのです。土地の形質変更や地下水取水などの制限はしていますが、建築や用途の制限は法律の目的外なのです。
 

問題は既存老人ホームの移転

 その他、都市計画法の平成19年改正により、市街化調整区域への福祉施設建築にも許可が必要になりました。私の感覚では、社会福祉施設の建築区域に関する制限は厳しくなっています。霞ヶ関は抜け道を作っているというよりも、むしろ都市部への建築を誘導しているように感じます。
 ですから本当に問題なのは、規制がゆるかった頃に建築された老人ホームだと思うのです。これを市街地などに移転させる為には補助金などが必要でしょうし、実際にそういう制度はいくつかあるようです。ただ、これもゴミ処理場と同じく「自分の裏庭には作るな」問題もあるようです。霞ヶ関を解体すれば安心、という単純な問題ではないと思います。
 

遊休建物の再利用は疑問

たとえば地方都市では、旧市街地が空洞化し、シャッター通りとなってしまい遊休施設がいくらでもあります。それらを活用すれば、建築コストも大きく下がり、空洞化対策ともなり、お年寄りが社会と接触を保つこともできるのですが、霞が関が認めません。

大西 宏のマーケティング・エッセンス : 老人ホームは危ない場所に建てられているという現実

 地方都市の遊休建物の再利用の提案ですが、正直疑問符をつけざるを得ないです。古い建物であればバリアフリーには程遠いですから、介護ができるように大幅に改築しなければならないでしょう。その際、当然アスベスト問題が足を引っ張るでしょう。また、土地の価格もシャッター通りとはいえ郊外より高い事が多く、総額のコストが大きく下がるというのはちょっと想像しづらいですね。
 
 
 
 
 私も地方分権は推進した方がいいと思っています。ですが、議論はなるべく正確にすべきではないでしょうか。「霞ヶ関が抜け道を作った」と主張するなら、その抜け道を指差すべきだと思います。
 ひょっとして、「もっと他にも知らないところで、地方分権派が地方のミスを官僚の責任にしてるのでは……」などと思ってしまうかもしれないじゃないですか。

*1:そういえば大西さんは老人福祉のプロなんだろうか