不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

家なんか建てるもんじゃない?


家を建てるなら (講談社文庫)

家を建てるなら (講談社文庫)

 あとがき


 家を建てると決めてた時には瞳を輝かせていた人が、家を建ててしばらくすると、ぐったりと疲れきっているという様子を間々見かける。
 彼らは異口同音に呟く。
「家なんか建てなきゃよかった」
 と。


 不動産業というのは、トラブル業と言っても良いぐらい、購入後のクレームがあります。もちろん、こちらに非がある場合もあるのですが、そうでもない場合も多いです。
 高額な買い物ですから、購入時にはやはり心理的に不安定になりがちです。入居時の興奮も冷め、落ち着いてくると小さな欠点が見え始め、不安定な心理状態に追い討ちをかけます。


 以前のエントリで、「不動産仲介屋の仕事って、売主買主のメンタルケアを中心に考えるのが良いという事ですね」などと、冗談めかして書きましたが、これは結構真実だと思います。




 以前、家の売却相談を受けた例です。
 築2年、南欧風の外観と日当たりが良く広いリビング、ゆとりのある間取、とても素敵な建物に見えました。
 疑問に思って売却理由を聞くと「郊外すぎて不便」とのこと。確かにちょっと不便な場所にある物件でした。そのエリアは中古物件の供給が過剰で、あまり高くは売れそうにありません。


 私は、机上で作成した査定書を引っ込めて、
「とても、良い家だと思います。売却するのはもったいない。少なくとも、安く売るのはもったいないですよ」
 と、相場より若干高めの査定価格に修正して提案しました。
「この金額で売れる自信は正直あまりないのですが、売り急ぐにはあまりにもったいないです。まず市場の様子を見ませんか?」
 お客様の同意を頂いて、その価格で売り出すことにしました。


 内覧は何度かあったのですが、売れずに3ヶ月。金額を若干下げて、さらに6ヶ月で購入希望のお客様が現れました。
 しかし、それを報告すると、
「いや、家内が何だかこの家に愛着が湧いたらしく、売却を取りやめたい」
 とのこと。


 入居後の小さな不満というのは、生活が落ち着き、ご近所にも知り合いが増え、精神的に落ち着いてくるとだんだん気にならなくなってきます。むしろ、その欠点に愛着が湧くことさえあります。
 この件は、不動産営業マンとしては失格のケースなのでしょうが、お客様とってはなかなか売れなかったことは、自分の家を見直す良い機会になったのかもしれません。





 家作りはこりごりと思っていた私ではあるが、四年たった今、もう一回くらい家を建ててもいいかな、と思っている。
 なぜそんなふうに考えるようになったかも、この作品集に書いてある。


 これから家を建てようと思っている方、この本を読んでみるといいと思います。