不動産屋のラノベ読み

不動産売買営業だけどガチガチの賃貸派の人のブログ

記事をパクるマネーフィードに対抗するスクリプトを作成しました。


 
 
 
 マネーフィード、という他人のブログの記事を無断転載しているサイトがあります。
 id:A-BOUTさんに教えていただいて始めて知ったのですが、当ブログも被害にあっていました。
trick4pc.com

 はてなブログのようなRSSを全文投稿するブログは簡単に記事を取得できますので、人力ではなく自動化してあるんだと思います。
 
 というわけで、自動化してあるなら簡単にハックできるなと思い、そのようなスクリプトを書きましたところ上手くいきましたので共有いたします。
 

<script>if (location.host=='trick4pc.com') location.href='http://realtor-readyabooks.hatenablog.com/search?q='+encodeURIComponent(document.querySelector('#single_title h2').textContent);</script>

 ↑これを、ブログ記事の最初のほうに入れてください。
 あ、ドメインは自分のに変えてくださいね。
 動作サンプルは、こちら。
trick4pc.com
 javascriptでそのページのタイトル文のブログ内検索に移動をさせるものです。
 大したことはしていないので、はてなブログ以外でも、少し手を加えれば使えると思います。
 
 
 
 もちろん、この程度のスクリプトなので、あちらが気づいたら対策を取られると思います。
 また、ブログ記事に直接書かなくてはいけない(デザイン設定などではRSSなどに反映しない)ので、いちいち面倒です。
 
 こんな反撃方法もあります。
 以下の手順です。

  1. クソ記事を書きます。
  2. マネーフィードに取り込まれたことを確認し、クソ記事を消します。
  3. すぐにゴミ箱から記事を復元します。
  4. すると、マネーフィードでは同じ記事が複製されているので、また記事を消しゴミ箱から復元し……を繰り返します。
  5. マネーフィードがクソ記事でまみれます。

 いかがでしょうか。
 
 
 

追記

 なんだか、私のブログのフィードを読まなくなってるかも?
 
 

マネーフィードというサイトがどんな感じで記事をパクるのかテストする記事

不動産の話を書くとパクられるのかな?
trick4pc.com
f:id:Lhankor_Mhy:20180625210720p:plain

わかったこと

  • script要素を読み込む
  • 記事を削除しても残る
  • 本文の編集を反映する

仲介手数料値引き競争をすると → SUUMOが潰れて → 案内屋が登場し → 桶屋が儲かる

 
 こんな記事が話題になっていました。

これを書いたのは理由があって、手数料一律30万の仲介業者を使おうとしたら「もう住○不動産で内見されてるなら無理ですねーあそこは特殊で」と言われたので。要は売主買主双方から手数料を取る両手取引をしたいがためにス○フが囲い込みをしているわけ。そういう買主のみ扱う格安仲介業者がス○フに問い合わせても断られちゃうってこと。

anond.hatelabo.jp

 
 増田の言いたいことをまとめると。

  1. 仲介手数料ディスカウント競争すれば、みんなが得する。
  2. 競争の妨げになる「囲い込み」最悪。
  3. 「両手」禁止すれば、「囲い込み」はなくなる。

 ということです。
 
「両手禁止」と「囲い込み」については、私も過去にいくつか記事を書いてきました。


 今回は、仲介手数料値引き競争が激化するとどうなるか、を予測してみたいと思います。
 
 

仲介手数料値引き競争をすると → ネットの情報が少なくなる

 仲介手数料値引き競争をすると、当然、コストカットをした業者が有利になります。
 不動産業者でコストセンターとなっているのは、不動産情報作成です。SUUMOやHOME'Sなどへのネット掲載料もバカになりませんが、物権調査をし、資料を作成し、収集し、削除をするのにかなりの労力を使っています。
 ネット掲載をしないのはもちろん、できれば、物件資料も持たないのが理想です。
 
「不動産屋の存在意義がなくなるじゃん。そんな自殺行為する奴いるの?」と思うかもしれませんが、実際に「ウチでは案内をしないので、他業者に見せてもらってから来てください」という素敵な業者も存在します。
 つまり、契約書を作るだけの不動産屋です。不動産屋というよりエスクローサービス、と言った方がしっくり来るかもしれません。
 
 もちろん、それはそれでアリな姿なんでしょう。
 ただ、そうなってくると、物件資料を作ってネットに挙げて物件案内をする普通の業者がいなくなりますから、この仕事を誰かがタダでしなくてはいけません
 普通に考えると、売主なんでしょうね。物件を売りたいという人が、写真を取って、役所回りをして法令調査をし、物件資料を作って、SUUMOにお金を払って掲載する。
 もしかしたら、売主お手製の物件資料を持って不動産業者を回り「この物件を売りに出していますのでお客様がいらっしゃいましたらご連絡ください。案内は私たちがしますので」と言うぐらいの営業活動が必要になるかもしれません。
 おそらく間違いなく、物件情報は少なくなるでしょう。同じ物件を5件10件掲載しそれぞれから掲載料を取っていたSUUMOなどの不動産検索サイトは、ビジネスモデルを考え直す必要があるのでは。
 
 
 
 ちなみに、フリーミアム*1の取り組みはGoogleがやって失敗しましたので、あまり期待しないほうがいいでしょう。

 

案内屋、物件情報屋が登場する

 物件情報がクローズになれば、顧客が情報を得ることが難しくなります。当然、情報の非対称性が上がりますから情報自体の価値が上がり、物件を直接取引しなくても商売が成り立つかもしれません。
 不動産屋から仲介業務を取り除いた業者、案内を代行する業者や物件情報を集めて売る業者が出てくるかもしれません。
 
 ここで面白いのは、仲介業務をしない案内屋は現場に行きますから物件に詳しくなり、仲介業務をする不動産屋は物件を見ませんからどんどん疎くなっていく、という点です。
 なんらかの新しいトラブルが発生するかもしれません。
 
 

桶屋が儲かる

 トラブルが多くなってくると、ペット可物件で余計なトラブルを抱えようとする賃貸オーナーが減り、猫が減りますから、ねずみが増え、ねずみが桶をかじるので、桶屋が儲かる可能性が高いです。
 *2
 
 
 

蛇足

 Googleが不動産業界に革命を起こしてくれる、そんなふうに考えていた時期が俺にもありました

「両手」を禁止すれば全て上手くいく、そんなふうに考えていた時期が俺にもありました


 似たようなテーマで過去にこんな記事を書いていました。


 
 
 

*1:これも死語化しましたね

*2:ネタです

「持ち家」派は「食べかけのカレー」の価値をもっとアピールした方がいい

 
 
 
 毎度おなじみ、「賃貸vs持ち家」論争です。
 
 今回のネタ元はこちら。
www.mag2.com
 筆者の主張は以下の3つです。

  1. 貸家は大家が利益を取るのだから、買ったほうが得。
  2. 所有していると安心。
  3. 持ち家は資産形成に有利。

 

貸家は大家が利益を取るのだから、買ったほうが得?

またそもそも家賃というのは、家を買うよりも割高に設定されています。家賃というのは、次の数式で算出されます。
 
家の購入費+諸経費+大家の利益=家賃
 
一方、家を買った場合、必要とされるお金は次の通りです。
 
家の購入費+諸経費
 
つまり、大家の利益の分だけ、家を買った方が得なのです。家賃を払っているということは、大家の利益をもずっと払っているという事なのです。

 よく耳にする理論ですね。
 でも、残念ながら、世の中には「業者がやると利益を生むからといって、自分でやった方が得とはならない」ことはたくさんあります。
 
 理屈どおりであれば、以下のことも言えるはずです。

  • ワンルームマンションに住むより、投資用ワンルームマンションを買ったほうが得
  • 分譲マンションは投資に最適なので、大家業の人がどんどん買ってしまう
  • 分譲一戸建てを買って賃貸に出せば、賃料収入でローンを払ってお釣りが来る

 でも、現実はなかなかこうはいかないです。
 
 直近の東京カンテイのマンションPER( https://www.kantei.ne.jp/report/95PER2017_shuto.pdf )によると、都内マンションのPERは平均で24.49倍、つまり平均利回りはだいたい4%です。
 ちょっと計算してみればわかりますが、これじゃ借入をすると利益出ないです。会計上は出るかもしれませんが、キャッシュフローはやばいです。お医者さんとか弁護士さんとか、「ちょっとお金が余ってるんだけど銀行に置いておくのももったいないしマンションでも買うかな」みたいな人が現金買いすれば、利益出るかもですね。
 

所有していると安心?

また“家”を持っている人と持っていない人では、心理的にも大きな違いがあります。“家”を持っている人は、収入が少なくても自分のことを貧乏だとは思わないでしょう。それは、人生を楽しく生きていくうえで非常に大きな要素ではないでしょうか?

 へえ。
 

たとえば、50歳くらいでリストラもしくは肩たたきをされた人がいるとします。この人が、もし家を持っていたなら、そう慌てなくて済みます。ローンが残っていたとしても、退職金で何とかなるでしょう。

 会社をクビになった場合、賃貸よりも、ローンを抱えていた方が安心できる、とのこと。
「家買っちゃったからもう仕事辞められない」みたいなサラリーマンの実感を一蹴する新しいモノの見方ですね。この前向きさは見習いたい。
 

持ち家は資産形成に有利?

持ち家のメリットはそれだけではありません。持家の最大のメリットは「資産形成」だといえます。家賃は払ったお金はすべて出ていくのに対し、持ち家の場合は、払った家の購入費(ローンなど)は、すべて「家」という資産を形成していくことになります。

 先ほども書きましたが、都内新築マンションの平均利回りは4%です。配当のいい株よりちょっと高いぐらいのレベルです。
 

購入時に無理のないローンを組んでいれば、地価が下がったとしても、ほとんど影響を受けることはないのです。いざというときに売却するときに、売却代金が減るというだけの話なのです。

 資産としては減っていますね。
 たとえばですね。「配当利回り4%の株があるから35年のロングで買えよ。いい資産形成になるぞ、その頃には価値が半分になってると思うけど」と言われて、買いますかね?
 

「食べかけのカレー」に価値を見るかどうか

 ただ、以下の指摘は正しいと思います。

しかし、持ち家の場合は、その逆です。長生きすればするほど有利になるのです。ローンを払い終われば、あとは固定資産税だけ払えばいいわけです。だから、老後の生活を考える上では、持ち家の方が圧倒的に有利なわけです。

 現在の日本の不動産市場では、残念ながらローンが終わった住宅はかなり価値を減らしているかと思います。ただ、使用価値は別です。
 
 たとえば、あなたが1000円のカレーを買って半分食べたとします。
 これ、500円で売れるでしょうか? 売れないですよね。もしかしたら、タダでももらってくれる人はいないかもしれないです。
 しかしだからと言って、あなたがカレーを半分食べたところで誰かに「その残り半分100円で買うよ」と言われても、あまり売ろうとは思わないんじゃないでしょうか。
 
「食べかけのカレー」の市場価値は0に近い、でもあなたにとっての使用価値は500円に近い。
 一般に、新品は、市場価値 ≒ 使用価値、中古品は、市場価値 < 使用価値、です。
 あなたが「食べかけのカレー」に価値を見るなら、持ち家はよい選択かもしれません。でも、市場価値を期待してはいけません
 

老後に家を買えばいい

 個人的には、老後に家を買えばいいかと思います。
 
 30歳で子供ができて、35歳で家を買って、55歳で子供が独立し、80歳で死ぬ、という人生を送った時、あなたが家で子供と一緒に暮らす時間は45年の内20年間です。残りの25年間はその分部屋が無駄になります。
 また、家を買う時に、小学校距離なんかを気にすると思いますが、これなんて6年で意味がなくなりますよね。
 高齢化社会において、子育て期は思ったよりも短く、人生の中でも特殊なニーズが発生する時期です。その一過的なニーズを主眼にして家を買い、使用価値を重視して流動性を失うのは、かなり無駄が多いでしょう。
 
 短くて特殊なのですから、賃貸でいいじゃありませんか。
 子育てが終わり、2人になってから部屋数が少なく市場価値の低い、あと30年使えれば十分な家を買う、というライフプランもありだと思いますよ。
 
 
 
 

「批判的=保守的」という若い人たち

 
 
 自分ではまだまだ若いつもりでいたんですが、もうインターネット老人になっていたようです。
 

ある物事に対して、そのプラス面を見て評価するか、マイナス面を見て評価するか、という分け方をしてみるとする。
 
(略)
 
マイナス面だけに注目するのが当たり前になった人たちは、最終的には「何もしないことが最良!」という価値観を支持するようになる。

blog.skky.jp

 批判的であること、イコール、保守的であること、という論はかなり衝撃的です。

肯定から始まる革新

 おっさん達が若い頃は、革新というのは常に現状への批判から始まりました。「小泉改革」とか「大阪維新の会」とか、下のほうから現状をぶっ壊そう、という動きです。
 
 しかし、「批判的=保守的」という若い人たちにとっては、どうやら「批判=革新への批判」ということのようです。
 まず、現状の肯定から始まり、その上で革新も肯定する、そういう人たちが革新派、ということらしいです。
 もちろん、実際に革新を実行する人は、現状に無批判ではないと思います。そのような人は現状を変更する動機に乏しい。
 であるから、大部分の人にとって「誰かが考えた新しいこと」について無批判に「お、それいいね」と支持する、というのが革新であるようです。
 
 つまり彼らにとって、「改革とはお上から下りてくるもの」なのではないでしょうか。
 
「お上」は言い過ぎとしても、すごく頭のいい人とか、とても行動力のある人とか、素晴らしいカリスマ性のある人とか、そういったちょっと雲の上の人たちです。
 すごい人や偉い人の邪魔をしないこと、イコール、革新的であること、というのが若い人たちのスタイルなのではないでしょうか。
 
 これは、現状へのゆるい肯定と、「お上」への強い信頼が必要とされます。
 少し前に話題になった id:kawango の「情報公開不要論」も同様の傾向が見られます。
 
kawango.hatenablog.com

まとめ

  • 日本って結構いい国
  • すごい人が、なんか新しいことを考えてくれるのは、いいこと
  • 批判は、すごい人や偉い人の邪魔になるから、よくない

 
 これが、これからの革新派、ということです。
 
 
 
 え?ノンポリ
 そんな死語を使うから年寄り扱いされるんですよ。
 
 
 

情報公開の必要性について

 

先にぼくの主張の結論を書くと、現状の情報公開制度は本来目指したいメリットは、ほとんど得られない上に、デメリットだけはとても大きいということだ。

kawango.hatenablog.com

情報公開による不正を減らすという目的は、究極的には国民の税金の無駄遣いを減らすということが一番大事だろう。不公平をなくすということは大事だとしても、平等にお金を無駄遣いするというのが目的ではないはずだ。

 
 細かい制度設計のことは置くとして、国を信頼しすぎかな、と思いました。
 

国がいつもあなたと同じ方向を向いているとは限らない

 思考実験をしましょう。
 
 たとえば。
 排他排中的な二つの政策AとBがあったとします。
 排他排中的なので、AとBのどちらかは実行せねばならず、両方を実行することはできません。
 AとBともに、実行されれば国に1兆円の利益があります。
 
 さて、ここで政策Bが実行されることになりました。
 ところが、政策Bではid:kawangoを殺すことが前提となっていました。
 そして、政策Aでは私、id:Lhankor_Mhyを殺すことが前提です。
 そしてどうやら、id:Lhankor_Mhyが不正な手段を持って政治に働きかけ、政策Bが採用されたようです。
 この不正を調査するには1億円がかかります。
 
 この調査が必要であるかどうか、国が判断するのであるなら、国の利益を第1に考えるしかないでしょう。
 そして、国の利益を考えるなら、調査をせずに政策Bを実行し、id:kawangoを殺すのがベストでしょう。
 id:Lhankor_Mhyの不正を調査することは、揚げ足取りであり、無駄です。
 id:kawangoが調査をあきらめれば、国のために自ら犠牲となった、とみなの尊敬をあつめるかもしれませんね。
 
 
 功利主義は、私も好きな考え方の一つです。
 ですが、その「功利」の測定について、各時代の賢人が頭を悩ませ、未だに結論がでていない難問でもあることを知っています。
「最大多数の最大幸福」は、その達成が難しい、というレベルの話ではなく、その存在を確認することさえが難しいのです。
 
 
 

NATROMさんの「インフルエンザ蔓延予防のための受診は必要ない」が成立する条件について

 
 ハイコンテキストすぎて私信みたいなものなので、↓こちらを読んでいない人はスルー推奨です。
 

 流行期には発熱患者の6割とか8割とかがインフルエンザである*3。仮に70%の確率でインフルエンザである患者さんに対し感度が80%の検査を行い、結果が陰性だったとしよう。この患者さんに対して「あなたはインフルエンザではないので熱が下がったらすぐに出勤していいです」と言っていいだろうか?

 こうした患者さんが100人いたらそのうち70人がインフルエンザだ。この70人のうち検査陽性は70×0.8 = 56人、検査陰性は70-56 = 14人。インフルエンザではない30人は全員検査は陰性である*4。陰性の結果が出た14+30 = 44人のうち、インフルエンザではないと正確に診断できるのは30÷44 = 約68%である*5。検査だけでインフルエンザではないと診断してしまったら、残りの3割強の患者さんがウイルスを巻き散らすことになりかねない。
 
(略)
 
 それはそれとして、インフルエンザの流行期には「検査で陰性なら解熱してすぐに出勤してもよい」「他人に感染させないためにも積極的に病院を受診して検査を受けたほうがよい」という方針は医学的には不正確で、かえって流行を促進しかねないことが周知されればありがたい。

d.hatena.ne.jp

 
 これは本当だろうか、と感じたので記事を書きます。
 
 

主題

 id:NATROMさんの

 インフルエンザの蔓延防止が目的なら、流行期の発熱患者は検査の結果に関わらず、インフルエンザであるとみなして対応するのが望ましい。すなわち、発症してから5日間かつ解熱して2日間は出勤せずに自宅で安静にする。

 というご意見に同意します。
 しかし、

 インフルエンザの流行期には「検査で陰性なら解熱してすぐに出勤してもよい」「他人に感染させないためにも積極的に病院を受診して検査を受けたほうがよい」という方針は医学的には不正確で、かえって流行を促進しかねない

 というご意見には異論があります。
 

検査陰性に対する見逃したインフルエンザ患者の割合は重要か

 まず、疑問に思うのは、

陰性の結果が出た14+30 = 44人のうち、インフルエンザではないと正確に診断できるのは30÷44 = 約68%である

 の部分です。この68%という数字は指標になるのでしょうか。
 全体で10万人いたとして、100人が発熱し70人がインフルエンザ患者、検査の感度が80%とすると、id:NATROMさんの計算のとおり、約68%です。
 
 さて。
 ここで、インフルエンザ以外の風邪が流行り、200人が発熱したとしましょう。この人たちも検査を受けに行きますがインフルエンザ患者ではありませんから、結果は陰性です。
 200人が発熱し70人がインフルエンザ患者、検査の感度が80%とすると、130÷144 = 約90%となり、インフルエンザ以外の風邪流行によって検査の信頼度が上がったことになります。
 おかしくないですか?
 
 また、インフルエンザの大流行により「少しでもせきや鼻水が出たら検査を受けるように」というお達しが学校や会社から出たとしましょう。
 その結果、1000人が検査を受けに行き、200人が発熱、70人がインフルエンザ患者、検査の感度が80%とすると、930÷944 = 約98.5%となります。つまり、症状がなくてもどんどん検査に行った方がいい……
 おかしくないですか?
 
 見逃したインフルエンザ患者の数や、あるいは集団全体に占める見逃したインフルエンザ患者の割合を見るべきではないでしょうか。それなら、どのケースでも同じ値になります。
 

「他人に感染させないためにも積極的に病院を受診して検査を受けたほうがよい」という方針はダメなのか

 次に疑問に思うのは、ここです。

「他人に感染させないためにも積極的に病院を受診して検査を受けたほうがよい」という方針は医学的には不正確で、かえって流行を促進しかねない

「医学的に不正確」なのはそのとおりなんだと思います。私もよりによってid:NATROMさんに医学で論争を挑むほど身の程知らずではありません。
 しかし。
 この「かえって流行を促進しかねない」というのは本当でしょうか。
 
 非常に雑で極々極めて簡単なモデルを考えてみましょう。

  • 集団人口100,000人
  • 発熱患者100人
  • うちインフルエンザ患者70人
  • インフルエンザ患者は2日間発熱し、5日間感染力を持つ
  • 検査の感度は8割
  • 検査陽性となった場合、5日間自宅で休養し誰にも感染させない
  • 検査陰性となった場合、2日間自宅で休養し3日間活動する。それがインフルエンザ患者ならその間に2人に感染させる
  • 検査を受けなかった場合、2日間自宅で休養し3日間活動する。それがインフルエンザ患者ならその間に2人に感染させる

 このモデルで誰も検査に行かなかった場合、全インフルエンザ患者がそれぞれ2人に感染させるので、次世代のインフルエンザ患者は140人になります。
 逆に、100%の発熱患者が検査を受けた場合、インフルエンザ患者の内 70 × ( 1 - 0.8 ) = 14人がそれぞれ2人に感染させるので、次世代のインフルエンザ患者は28人になります。
 めちゃめちゃインフルエンザ蔓延予防に役に立ってますよね。
 
 id:NATROMさんはどのようなモデルを考えたのでしょうか。

 インフルエンザの蔓延防止が目的なら、流行期の発熱患者は検査の結果に関わらず、インフルエンザであるとみなして対応するのが望ましい。すなわち、発症してから5日間かつ解熱して2日間は出勤せずに自宅で安静にする。

 そういうことでしょうね。
 
 モデルを再構築してみましょう。

  • 集団人口100,000人
  • 発熱患者100人
  • うちインフルエンザ患者70人
  • インフルエンザ患者は2日間発熱し、5日間感染力を持つ
  • 検査の感度は8割
  • 検査陽性となった場合、5日間自宅で休養し誰にも感染させない
  • 検査陰性となった場合、2日間自宅で休養し3日間活動する。それがインフルエンザ患者ならその間に2人に感染させる
  • 検査を受けなかった場合、5日間自宅で休養し誰にも感染させない

 このモデルで誰も検査に行かなかった場合、全インフルエンザ患者を含む全発熱患者が休養するので、次世代のインフルエンザ患者は0人になります。
 逆に、100%の発熱患者が検査を受けた場合、インフルエンザ患者の内 70 × ( 1 - 0.8 ) = 14人がそれぞれ2人に感染させるので、次世代のインフルエンザ患者は28人になります。
 めちゃめちゃかえって流行を促進してますね。
 
 とはいえ。
 現実に「熱は治まったけど、インフルエンザだったかもしれないし、あと3日休もう」という人たちが100%を占めるということはないでしょう。
 モデルを再構築してみましょう。

  • 集団人口 p 人
  • 発熱患者 f 人
  • うちインフルエンザ患者 d 人
  • インフルエンザ患者は2日間発熱し、5日間感染力を持つ
  • 検査の感度は8割
  • 検査陽性となった場合、5日間自宅で休養し誰にも感染させない
  • 検査陰性となった場合、2日間自宅で休養し3日間活動する。それがインフルエンザ患者ならその間に n 人に感染させる
  • 検査を受けなかった場合、「休養割合」r の発熱患者が5日間自宅で休養し誰にも感染させないが、( 1 - r ) の発熱患者は2日間自宅で休養し3日間活動する。それがインフルエンザ患者ならその間に2人に感染させる

 このモデルで誰も検査に行かなかった場合、インフルエンザ患者の内 d × ( 1 - r ) 人がそれぞれ i 人に感染させるので次世代のインフルエンザ患者は d × ( 1 - r ) × n 人になります。
 逆に、100%の発熱患者が検査を受けた場合、インフルエンザ患者の内 d × ( 1 - 0.8 ) 人がそれぞれ2人に感染させるので、次世代のインフルエンザ患者は d × ( 1 - 0.8 ) × n 人になります。
 
 せっかくですから、検査を受けに行くか否かで次世代のインフルエンザ患者が変わらない、「休養割合」r を求めてみましょう。
 d × ( 1 - 0.8 ) × n = d × ( 1 - r ) × n
 r = 0.8
 まあ、求めるまでもないですよね。式をごらんいただければ分かるとおり、インフルエンザの感染力や、インフルエンザ患者の割合・数、発熱患者の数に依存しません。
 この非常に雑で極々極めて簡単なモデルですと、「休養割合」r が検査の感度(80%)を上回る場合に『「他人に感染させないためにも積極的に病院を受診して検査を受けたほうがよい」という方針は、かえって流行を促進しかねない』と言え、下回るの場合は蔓延予防になると言えます。
 
 
 
 もちろん、現実はこのモデルとは違って、陽性だというのに外に出たり、検査を受ける前に他人に感染させたり、症状のない感染者がいたりするわけで、計算どおりにはいかないでしょう。
「じゃあもう、休んでもムダなんじゃね?」と言いたくなりますよね。
 
 ただ言えることは、「休養割合」r が 1.0 の状態がインフルエンザ蔓延予防目的には最上であり、そのためには「検査で陰性なら解熱してすぐに出勤してもよい」は排除しなくてはならない、ということです。
 そうなった場合には陽性だろうと陰性だろうと発熱があれば休むのですから、検査は『かえって流行を促進しかねない』と言えるでしょう。同様の理屈で、ワクチンもインフルエンザを軽症化し、感染者を不可視化するので、『かえって流行を促進しかねない』と言える、かもしれません。
 しかし、その最上に至る過程の状態においてはその限りではないと思います。
 戦争が存在しないことが最上であり、そうなった場合には戦争をしないのですから、軍事力はかえって戦争を促進しかねない(ただし現状ではその限りではない)、みたいな話でしょうか。
 
 
 個人の行動選択としては、あなたの周辺が「熱は治まったけど、インフルエンザだったかもしれないし、あと3日休もう」という行動に許容的であれば検査を受けない方がよく、否定的であれば検査を受けに行って陽性の結果を勝ち取るのが最適と言えるでしょう。
 クソ当たり前すぎる結論ですが。
 
 
 

コメントを受けて追記

 id:NATROMさんからコメントを頂いたので、その応答を追記します。

 検査対象者の有病割合(検査前確率)が低いほど陰性反応的中割合は高くなります。

 異論ありません。
 

 わざわざ検査を受ける意義に乏しいです。

 異論ありません。
 
 ここでは、陰性的中率がインフルエンザ検査の蔓延予防効果の適切な指標になりえるか、ということを書いていました。
 コメントの最後の段を読んで、NATROMさんは「インフルエンザ検査の蔓延予防効果の指標」として書いていたのではなくて、検査陰性の不確実性を周知するためだったのだ、と理解しました。
 ありがとうございました。
 
 

 検査を目的に受診するインフルエンザ患者の増加は病院への行き来や待合室で他の人にインフルエンザを感染させるリスクを増やします。また、検査を目的に受診するインフルエンザではない患者の増加は待合室で自身がインフルエンザに感染するリスクを増やします。とくに流行期はそうです。その点をご考慮いただけたらありがたいです。

 おっしゃるとおりです。
 
 

 インフルエンザワクチンの集団免疫効果は疫学研究で示されています。「ワクチンは流行を促進しかねない」という主張は間違っています。

 おっしゃるとおりです。私も本気で「前橋レポート」みたいなことを考えているわけではないのですが、不用意な書き方だったと思います。
 
 

 ちなみに私の外来に受診していただけたなら原則として検査なしにインフルエンザと診断して5日間自宅で休養していただきます

 それは素晴らしい。
 

「他人に感染させないためにも積極的に病院を受診して検査を受けたほうがよい」という方針は医学的には不正確であることを周知する必要があります。診察室内でご説明してもほとんど意味がないんですよ。そんなことを言われても個々の患者さんはどうしようもないでしょう。

『会社内や組織内でインフルエンザが蔓延するリスクを負いながら、休養をしない、あるいは休養をさせない、という選択をせざるを得ない事情があるのは理解できる。しかし、「検査で陰性なら解熱してすぐに出勤してもよい」という方針は、一般にリスクが低く見積もられすぎ、不要なリスクを負っている傾向にある。「インフルエンザ蔓延リスクを可能な限りコントロールしたいならば、検査を受けずに休養するべき」と周知した方がよい』
というような理解で、おおむねよろしいでしょうか?